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銀行員の経験がパン屋の起業に役立つワケ

 元銀行員が63歳でパン屋を起業して、過去のビジネス経験が役立ったことを、銀行で体験した具体的な事例を元に書こうと思う。個別業種の話ではあるが、業種・職種を問わず普遍的な視点もあると思う。

上達の過程

 各業務のスキルが上達していくには概ね以下の過程を経たように思う。

慣れる
繰り返す
短期集中(間を置かない)
コツをつかむ
臨界点
パターンを見つける
異例処理
場数を踏む
方程式
応用


経験した銀行業務の中から、上記に当てはまった事例を挙げてみる。

具体例~札読み

 札読みとは、紙幣を手で数えることである。縦読みと横読みの二種類あるが、最近は機械処理に替わっている。新人は最初にこの作業を訓練する。(最近は違うかもしれない)銀行勤務時間内の1/3くらいは札読みの時間だったと思う。同じような環境下で各自練習したはずなのに、新人札読み全国コンテストでは、早くて正確な人とそうでない人との間には相当な開きがある。私は遅い方だった。入賞した同僚から聞いたら、帰宅後や休みの日も相当練習したらしい。資質もあると思うが意欲と練習量の差が成績に現れる。窓口係では札読みの腕が業務処理に大きく影響するので、訓練すべき期間に習熟しておかないと使い物にならない。このケースは、慣れる、繰り返すだけで終わったので、スキルとしては未熟だった。

具体例~プログラミング

 あるコンピューター処理のプロジェクトに参加して、プログラミングを学んだことがある。プロジェクト終了後にそのスキルが立つ銀行業務はなさそうだと当時は思っていた。支店では営業成績を評価するための制度があり、目標の達成度をシミュレーションするのにパソコンの表計算ソフトが役立った。当時は手計算で処理していたので、分類・集計・シミュレーションを自動計算する表計算は威力を発揮した。この業務以外でも顧客管理、不良債権処理、支店ランク付け、原価計算、返済計画などで大いに役立った。

具体例~住宅ローン

住宅建設ブーム時期に住宅ローンの担当になった。毎月40件ほどのローン一次審査を行う。最初の頃は書類不足や不手際で何回もお客さんに来てもらい、迷惑の掛け通しだったが、そのうち慣れてくるとコツがつかめ手際良く処理できるようになる。基準に満たない異例扱いについても最終審査パスの可否がわかるようになる。件数をこなし場数を踏むと即断できるようになる。上達過程「慣れる」~「場数を踏む」までを体験したのでスキルを体得し、次業務の「事業融資」へのステージで役立った。

具体例~融資

 住宅ローン担当から事業融資の担当になった。ひな人形製造企業を数ヶ所担当した時、特定の時期だけ借入するパターンがあることを知った。いわゆる季節資金である。別の支店では、バブル期の土地融資ばかりを取り上げた。同じ業種を繰り返し担当すると業種特性に精通し、パターンがわかってくるので審査の速度・精度ともにレベルが上がり、業種が変わっても応用が利くようになる。事業融資は業務範囲が広く深いのでキリがないが、それなりに場数を踏むことで、情報収集
分析、特性把握、資金需要、将来性などから融資判断ができるようになり、このスキルは他の分野・作業でも応用できる。また、融資の可否を判断するための社内稟議書をさまざまな業種・企業・融資形態で作成・書き直しを繰り返したので、「慣れる」~「場数を踏む」まで体験し文章力が鍛えられた。

具体例~集計・分析

プログラミングを学んだ時はプログラム1本しか作らなかったので、スキルには程遠かったが、基礎知識としくみは理解できたので、表計算ソフトは使いこなせるレベルに達していた。支店では業績評価シミュレーション、取引先財務分析、取引先各種ランキング、業種分布、不良債権処理シミュレーション、稟議書資料などで使いこなし、作業ごとのテンプレートを作り上げ、さまざまに応用した。本部では支店の期限管理状況を把握するツールとして応用できた(後述)。

具体例~監査

 銀行合併時に支店の融資事務指導の担当になった。システムや事務処理の大幅な変更に伴い、支店は混乱状況だった。支店を次々と訪問し、情報を集め、事象毎に分類・集計して、対策を練り、ツールを用意して、支店の担当者を集めて説明し、後日再訪して進捗を確認する。同じようにやっていても、支店によって結果にばらつきが出てくる。個別事情を把握しながら対策を練り説明を繰り返す。合併から1年程経つと落ち着いてくるが、やはり支店によって期限管理のレベルのばらつきがある。支店別管理項目ごとにランク付けして、ワースト上位の支店を集中的にフォローした。ここでも分類・集計することで「見える化」でき、効果的な手が打てる。こうした作業には表計算ソフトが威力を発揮する。同じ作業を繰り返し、場数を踏むと全体像が見えてくる。

具体例~人間関係

 銀行は3年前後で転勤を繰り返す。その都度、新しい配属先で上司や仲間と新たな人間関係を持つことになり、関係が悪化すると業務に支障がでる。限られた任期の中で成果を出すためにはコミュニケーション・スキルを磨かざるを得ない。
 また、銀行の顧客はあらゆる業種のさまざまな形態の団体・個人との取引があり、対応も異なる。相手先の特長や性格を把握して応対しないとスムーズに進まない。上司・先輩のアドバイスをもらい、失敗を繰り返しながら経験を積んでいく。やはり、場数がものを言う。

身に付けたスキル

・金融・経済知識
・課題解決の手法
  情報収集、分析、対策検討、ツールを用意、実行
・文書読解力、しくみの理解力
・状況判断力、決断力
・コミュニケーション・スキル

起業に役立った事例

・事業構想の作成
・採算設計・把握
・税務・会計処理
・各種契約
・パンなどの製造技術習得
・商品開発
・接客・新規開拓
・仲間を増やす

まとめ

 ・上達していくには過程があり、やり切ることで「スキル」が身に付く
 ・作業の量をこなし場数を踏むことを繰り返していると、急にレベルが上がる臨界点のような状態がやってくる
 ・課題解決には、情報収集、分析、対策作り、ツールの用意、実行という過程が必要で、場数を踏むことで「手法」が身に付く
 ・一旦身に付けた「スキル」「手法」は、他の業種・職種や日常生活でも応用が利く
 ・場数を踏むと全体像が見えてきて、自在に対応できる
 ・生まれ持った資質・性格もある程度影響するので、手法や職種の向き・不向きもある
 ・会社勤めから別の業種・職種で起業すると、過去のスキルの応用に気付く
 ・結局は体験の量・質・種類をどれだけ積んだかで、「スキル」や「手法」のレベルが決まる
 ・過去のビジネス経験が起業に役立つ


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