『小説家の映画』~kaf

ホン・サンス監督作の映画。
全編白黒で、かつ徹底した会話劇になっているため、躍動感のある画面を求めている方には楽しみ辛い面は正直ある。
主も、上映中に作品と関係ないことを考え込んだりしつつの鑑賞となった。


にも関わらず、観終わった後の感触は素晴らしい。
主人公はとても名の知れた作家で、他の人物と会う度に「先生の作品読みました。大変素晴らしかったです。」と言われる。
が、今は新しい作品の構想が全く浮かばずフラフラと旧友や一緒に仕事した映画監督に会ったりして、周囲の変化と前に進んでいる姿に少し焦っている。

そんな主人公の前に、こちらも名の知れたとある女優が現れる。
意気投合して2人は「映画を作ろう」と盛り上がる。

が、主人公はやはり中々構想が浮かばず…


といった内容。
基本的に主人公は“停滞”の姿勢から変わらない。(変わりたいという情熱はある)

そんな主人公の前に現れる人々は皆少しずつ変化していたり、今も前に進み続けていたり、新しいことに挑戦したりしている。
もし主がこの主人公と同じ立場にいたら、発狂してしまうんじゃないかというくらいに圧倒的停滞が押し寄せる。

1カットが定点で長尺のため、役者陣の空気の変化がとてもストレートに響いてくるので、より一層主人公の葛藤が浮き立つ。

どこまでが狙いで、どこまでが予想外の出来事なのかわからなくなるくらいビビットに空気の変化が伝わる。


そんな中で、主的に1番印象的だったのは序盤の喫茶店店内での会話。

主人公が、喫茶店で働いている女性従業員(30代・元女優)に対して「今は何しているの?」と聞く。
すると女性従業員は「手話の勉強をしています。」と答える。
主人公は手話についてとても興味を示し、そこからプチ手話教室が始まる。

文字にしてみるととても他愛のないシーンに思えてきたが、鑑賞中、震えるほど良いシーンだなと思った。
最後まで観たら、「停滞してる主人公の前に、何かを諦めて何かを始めた人物が現れた」という関係性だったんだなとわかる。

が、まだこの映画がどんな映画かもわからないうちから震えるような感動を受けたのだ。

・シーン中、その場にいる登場人物達の空気がとても温かくなった。→「手話の勉強、とても良いことですね」とわざわざ言葉にしなくても伝わる程の空気。
・“手話”を勉強することによってコミュニケーション範囲を拡充させる。→他者と繋がろうとする。前向き。

多分鑑賞中は上記2点で感動したんだと思う。
本当に良いシーンだった。


そして、終盤でそれまでこの映画がずっと守り続けていた(というか監督自身のルールと言ってもいいかも)ルールをあっけなく破るシーンがある。
それは思わず身を乗り出しそうになるくらいの鮮やかさで、スクリーン内の空気が一気に変わったのを感じた。

ほんの一瞬のルール逸脱がここまで効果的になるのかと思った。

そして夢から覚めたようにまた元のルールに戻って映画が進行していく。


あの屋上の後ろ姿にはどんな意味が込められているのか、もうしばらく余韻に浸りつつ考えたい。

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