お節料理
昨今は、お節料理を買うことがすっかり普通になっている。また、汗ばむ頃から、「早期割引」などという文字が踊るチラシをあちこちで眼にする。
有名ホテルやレストラン、料亭が自ら販売するものもあれば、「料理長が監修」などと銘打って食品メーカーや通販会社が販売するものもある。
家族の人数も減り、わざわざお節料理を作るよりも、出来合いのものを買ってくる方が合理的だ。人数が多くとも、若い人がいるならば焼肉だの手巻き寿司だのの方が受けもよかろう。
以前に年輩の調理人が、お節料理について話していたことがある。彼によれば、料亭や料理屋がお節料理を作るのは、御贔屓筋への一年間の御礼と新年への御挨拶のためだったと言う。
「考えてもご覧なさい。忘年会やなんやで一番の書き入れ時の年末に一週間近く店を締めて、総動員でお節料理を作るんですよ。儲けなんて考えてやるもんじゃなかったんです。」
もちろん、相当の贔屓筋でなければ、年末に料亭からお節料理は届かなかっただろう。金を出せば買えるというものでもなかったのだろう。
今は、誰でも行ったことのない高級レストランのお節料理でも取り寄せることができる時代になった。しかし、もしかしたら、今でも、やはり一般に販売するものと、御贔屓筋向けのものとあるのかも知れぬ。私には、そんなお節料理は届かぬが、そういうことがあっても良いではないか、と思ったりする。少し羨ましいが。