田舎のバス
東北の日本海側にあると温泉地に路線バスで向かった。人口が減って利用客も減り、いくつかの路線が統合されたのだろう。バスは丹念に小さな集落を回り、病院と郊外のショッピングセンターを経由して、ジグザグに進んでいく。
見覚えのある交差点だと思ったら、ついさっき通った交差点にぐるりと回って戻ってきたなどということも、2度ほどあった。
車を運転して行けば、ほぼ直線の国道を走り、30分ほどのところなのだが、バスは、いつまでたっても目的地に着く気配はない。
鉄道の駅を出発した時には私を含めて5人ほど乗っていたのだが30分ほどたって気がつけば乗っているのは私一人である。国道から外れた細い道を、丹念にバスを走らせている運転手が気の毒になるほど、どのバス停にも人はいない。
1時間半ほどかけて、終点である温泉地に着いた。初老の運転手は、にっこり笑って、お疲れ様と私に言った。私も彼に、どうもありがとうと言い、運賃を支払って、私が降りると、その後ろから運転手も降りてきて大きく背伸びをした。
細かな白い砂が海岸から吹き寄せられていた。波音が近くに聞こえた。バスは、20分後に駅に戻っていく。
海の見える小さな旅館の座敷に寝転がりながら、バスはいま、どこら辺りだろうと考えた。私が日常に戻り、バスのことなどすっかり忘れてしまっても、バスは、いつもゆっくり丁寧にジグザグに走っているだろう。
当たり前じゃないか!
しかし、なぜか少し愉快になった。世の中は、私がどうあれ、動いていく。あのバスのように。なにも私が気に病むようなことはないのだ。