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シュールな夢を見ていたい 三浦海岸 南風珈琲
実現されたオジサンの夢みたいな場所。海辺にひっそりと建つ白く塗られた喫茶店を訪れてそう思ったのを覚えている。
会社を辞めたら退職金で小さな店を開いて。。。なんだか高度経済成長期によく聞いたような話でもあるが、そんな夢が具現化したかような場所が三浦海岸の外れにポツンとある。
駅から三崎の方にゆっくり歩いて20分、なかなかの道中、横目で見ていた海を今度は正面に迎えてぼんやりと眺めながら珈琲を飲む。
少し緑がかった青い海、うっすらと紫が混じっている桃色の夕日、淡い青と水色の中間の空。
色合いを見るとすぐにそれとわかる、少し不思議なグラデーションが三浦海岸らしさでもあり、この色を出す海岸は他には無い。
海はいつまで眺めていても飽きないし、飽きたら空でも眺めておけばいい。
行く度にマスターのお気入りの大瀧詠一がよく流れている。何度も聴いた「幸せな結末」が流れる度に、ラブジェネレーションのワンシーンが浮かんでしまうという、30歳以上には少し嬉しいオマケついてくる。
インスタオジサン、フェイスブックオジサン、ニューズピックスオジサン。まるで撲滅べき対象であるかのような言われようのこの頃。
もちろん相手の気持ちも考えないマウンティングばかりしているオジサンは蔑まれて当然である。
ただ、若者だって多くのジャンルに分類されてしまうように、世の中にはちょっと小粋なオジサンもいる。所ジョージのような。
そんな小粋なオジサンが丁寧に淹れてくれる珈琲を、ふと漂う潮風と一緒に愉しんでいると、テレビとネットに溢れる日々のノイズにイライラする事とかどうでもよくなってしまう。
人間は小さい。
そして海の力は偉大だ。
太陽を背にした逆光の東京湾と房総半島、なんやかんやと煮詰まってくる夕暮れ時。
日中は観光客で賑わう三浦海岸もあらかた人がいなくなる。
そんなガランとした時間を狙っては訪れるくらいには、この土地のリズムが身についてきた。
店を出る頃にはだいぶ日が落ちている。神奈川県の最果て、三浦は空気が澄んでいるから夜空も近い。
もう東京では消耗したくないし、海辺の街での暮らしはしばらく続けたい。明日は何を書いて何を作ろう。
あんなに追われていた忌まわしき仕事というものが、今では一番作りたいものになったというのは、なかなか面白い。
ロマンチックな星空を眺めては、今日も南風に吹かれてシュールな夢を見ている。
★三浦海岸は品川から京急分で75分。東京に接続された自然を気軽に楽しみに行ける。マグロ推しだがそれだけじゃない。
少し時間がかかるも、海沿いの道をテクテクと歩いていくのも悪くない。
Write by Yuk.H
普段は三浦半島で力の限りキーボードを叩いています。