欧州在住のクルド人社会の現実描いたトルコ映画…「二番目の妻」
日本に暮らすクルド人たちへのヘイトスピーチがますます醜悪さを増している。そうした言動を取る人たちは、いったいどれだけクルド人について知っているというのだろうか。故郷を離れてくらす彼らがおかれている状況、彼らの心情について、少しでも考えることがあるのだろうか。SNSに口汚い言葉を書き連ねる時間があるなら、ぜひ、鑑賞してもらいたい映画を紹介したい。2020年に開催されたイスラーム映画祭で上映された作品「二番目の妻」だ。ただ、今のところ日本語版はなく、トルコ語やフランス語版でしかみることができなさそう。改めて、「イスラーム映画祭」が果たす役割の大きさを感じる。
同作品を含めた、イスラーム映画祭の過去の上映作品がここにリストアップされているので、参考まで。以下は、映画祭鑑賞後にメモ代わりに記した「二番目妻」のレビーになる。
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「イスラーム映画祭」2日目。オーストリア・ウィーンで暮らす、トルコからの移民一家の複雑な人間模様を描いた「二番目の妻」(2002年)。オーストリア在住のウムト・ダー監督。映画祭パンフレットによると、一家はクルド人。監督もクルド系のオーストリア人のようだ。
設定がものすごく衝撃的なので、ネタバレなしに筋書を説明をするのは極めて困難。だから、ストーリーの詳細に立ち入るのは避けたい。ひとことで言ってしまうと、「一族の存続や名誉の維持」を重んじる伝統的な価値観が、農村部などの地方においてすら、大きく揺らいでいるというクルド人社会の現実を表現しているフィクション映画だった。
中東や南アジアなど地縁・血縁の紐帯が強固な社会では、一族の名誉を守るためという名目で、婚外交渉を行った女性を一族内で殺害していもよい、という「名誉殺人」という慣習が残っている。部族社会の色彩が濃い、地方のクルド人社会にもそうした考え方は今も根強く残っているとも言われる。
ただ、映画のラストシーンが示唆しているのは、一族の名誉を最重視する考えがもはや時代の変化とともに消えつつある、という見立てだ。価値観の違いは、都市と地方といった地理的なギャップというよりも、時間、つまり世代間ギャップという縦軸の違いであるという見方を示している。
この映画は、2012年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でも上映されており、以下のページに、来日したウムト・ダー監督のQ&Aの模様が掲載されているので、関心のある方はぜひ読んでほしい。