20年のあゆみを振り返る--カフェバグダッド×比呂啓対談④
2024年4月に開催したカフェバグダッド設立20周年記念イベントでのトーク。映像ディレクターの比呂啓さんとの対談でそのあゆみを振り返る、というものだった。話はようやく、カフェバグダッドの始まる時期の話題に進んでいく。
比呂啓(以後、「比呂」と表記) で、カフェバグダッドが立ち上がるのは、いつなんですか?
カフェバグダッド(以後、「カ」と表記) カイロの最初の駐在から日本に帰国した2004年の4月です。それがいわゆる「カフェバグダッド成立の瞬間ということになります。
比呂 バグダッドで、カフェにはまったということ?
カ 「カフェバグダッド」という名前は、2003年に始まったイラク戦争の前後にイラクに足しげく取材に通って、バグダッドのカフェに魅了されたことで名づけました。ただ、最初にアラブのカフェにはまったのはカイロです。カイロの事務所から徒歩2分のところにあったカフェに、仕事、つまり原稿を書くのに煮詰まったら、よく行っていたんです。
比呂 (写真をみながら) へえ、結構狭いところなんですね。
カ 店内はかなり狭いんです。だから、椅子を道路に出して、外でお茶を飲んだり、水たばこを吸ったり。
比呂 今もあるんですか?
カ あります。でも、いつも水たばこをいれてくれていたおじさん、この写真の後ろにいる人ですけど、もう亡くなったようです。2013年にカイロに再赴任した時に、それを知りました。
比呂 毎日水たばこですか? それは体に悪いっすよ。
カ 悪いですよね(笑)、でも、ほかに娯楽がないというか…夜は、あんまり娯楽がないといえば、ないというか。まあ、映画みるぐらいとか。昼間はね、ホテルのプールで泳ぐとか、砂漠ツアーに行くとか。カイロに住む日本人ではそういう楽しみをしている人もいたと思うけど、私はあまりやらなかったかも。
比呂 まあ、カフェが気分転換だったんですね。
カ あっ、そういうことですかね。で、結構いろんな人をこのカフェに誘ってね。「行きましょう、行きましょう」って言って誘ったけど、嫌がる人も結構いました。
比呂 このころはまだ、水たばこ見て「麻薬吸ってるのか?」と言われた時代でしょ。私も父親にそういわれた。
カ 比呂さん、ニューヨークで水たばこやってた?
比呂 ニューヨークではやらなかった。日本に帰ってきてからかな。
カ こっちは別なカイロの行きつけのカフェの写真。2013~2016年の第2期カイロ時代に行きつけだった店。だいたい、その日の原稿を書き上げてからこのカフェに行って、原稿を再チェックしたりしながら、水たばこを吸っていた。昼ごはんはポテトチップスとかで。行った回数は300回、いやそれじゃあ、きかないかも知れない。
比呂 すごいね、そんなに行っていたんだ。
カ ここも、庶民的で、値段も安いカフェ。これ、いい写真ですよね。近くに芸術大学があって、その学生さんが楽器片手にやってきて、演奏もしたりしていました。実は、この写真には、第1期カイロ時代と変わったところがあるんですよ。2011年のいわゆる「アラブの春」がきっかけだったと思っているんですけど。この写真みて、なにが変わったと思いますか?
会場のトーク参加者 女性、ですか?
カ そうなんです。女性がカフェに行くようになったんですよ。以前は、エジプトの女性が、こうした庶民的なカフェに来ることはまずありませんでした。だから、日本人の女性をカフェにつれていくと、奇異の目で見られたんです。それが、女性も当たり前にカフェに出入りするようになったんです。なんか、「エジプトに明るい時代来たかな」と、ちょっと思いましたね。まあ、本当に明るいかどうかは、議論が必要だとは思いますけど。
比呂 へえ、そんな短い期間に変わったんですね。
カ そうなんです。ちょっとあとの時代に進んだので、時計の針を戻すと、第1期カイロ時代が終わり、日本に帰国したんですが、日本には、カイロのように水たばこを吸えるカフェというものが、ない。もう、思い出にひたっているわけです。
比呂 でしょうね~
カ それで、いっそ、自分でカフェやったらいいんじゃないか、と思ったりもしていたんです。カイロからの転勤先は宇都宮だったんですが、職場の後輩に、「カフェやりたいな、と思っている」と話したこともあるんです。
比呂 宇都宮…それこそ何もない…
カ まあ、カフェやるんだったら、東京でかな、とは思っていたと思います。ただ、まあ結果からいうと「口だけ」ということになって、常設の店を出すことはなかったんですけど。ただ、1日だけのイベントでカフェのまねごとみたいことをできないかと思いついて、知り合いに話したら、東京の下北沢の「現代ハイツ」というカフェが、「それ面白い」と言っているというんですよ。それで、すぐに「現代ハイツ」に行って交渉したら、「じゃあ、やりましょう」ということになった。
(⑤に続く)