バクラヴァ本を出版する、究極の目的とは
中東菓子の「バクラヴァ」は、日本ではまだ知らない人が圧倒的に多い食べものだろう。昨年11月に東京・銀座の百貨店にトルコ・イスタンブールの老舗が、海外初店舗を出店して話題になり、さらに12月には、日本在住のシリア人が東京・練馬にシリア式
のバクラヴァ工房をオープンさせた。
それ以前にも日本在住トルコ人などが、バクラヴァ製造に乗り出して、中東料理店や食材店に卸売りをしていた。そうして形成されていた基盤の上に昨年後半の出店の動きが重なり、今、ちょっとしたバクラヴァブームが起きていると言ってもいいかも知れない状況だ。
そうした中、比呂啓さんとじょいっこさんの共著で、バクラヴァ本「Baklava BANZAI deluxe」を出版することになった。1月15日に、京都市であるイベント「文学フリマ京都」と東京・銀座の東急プラザで同時に発売する。昨年11月に発行した初版に大幅加筆したものだ。
こうした経緯をみると、今回のバクラヴァ本出版が、巷で盛り上がりつつあるブームに便乗しようとしたものではないか、と感じる人もいるかも知れない。だがそれは、時系列をもう少し遡ると決してそうではないということがわかってくれると思う。
まず、共著者の比呂啓さんとバクラヴァの付き合いだ。2019年にイラクを訪問して、北部アルビルやスレイマニヤといった街でバクラヴァ店を取材。それをYouTube番組などの形で発表している。同時に東京で買える店の情報もまとめて、noteで発表している。さらに昨年7月にはトルコを訪問し、内戦を逃れてイスタンブールに来たシリア人コミュニティを取材。シリア料理店やシリア式バクラヴァ店を訪れている。
じょいっこさんも以前から、東京などで店舗展開するアラビア料理店「カールバーン」などでバクラヴァの味に触れていた。
私も、アラブ圏で暮らしていた頃からバクラヴァを含めた中東菓子に親しんでいた。さらに昨年10月には、バクラヴァの都と言われるトルコ東南部ガジアンテップを訪れ、本場の味に触れることになった。つまり、日本への出店を知って付け焼き刃的にあわてて出版の準備をしたわけではない、ということなのだ。
さらに言うと、バクラヴァそのものの知名度を高めることが我々の目指すところではない、ということだ。バクラヴァを通じて、中東という地域、そこに暮らしている人々にも、関心の目を向けて欲しい、という究極的な目標を胸に秘めている。
それは、2004年に「カフェバグダッド 」という団体を設立した際の趣旨でもある。そうしたことを念頭にバクラヴァを食べてくれ、というつもりは毛頭ないのだが、何かの折にでもバクラヴァの背後にある文化的な広がりに、思いを向けともらえたら、と思うのだ。本の内容からも、そうした思いを汲み取ってもらえるのではないか、と思っている。