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『知』の積み増しと継承

昨年、11月、初めて『五十鈴の森クラフトフェア』というイベントに行った。

いろんな作家さんの作品が並ぶ中、フードもスイーツも充実していた。

そんな中、四角いスコーンを見かけ、久しぶりに四角いスコーンを作ってみた。


ほうじ茶のスコーン
バタースコッチスコーン
チョコとキャラメルのスコーン





NHKで放送中のアニメ『チ。ー地球の運動についてー』というアニメにハマっている。

『 チ。』は漫画が原作で、以前から友人からおすすめされていたが、第1話を電子書籍のお試しで読んだだけで、それ以降は読んでいなかった。

アニメの方を観て、とても面白く、のめりこんでしまった。

『チ。』は平たくいうと15世紀のヨーロッパを舞台にした禁断の学問、『地動説』を巡る物語。

地動説は15世紀よりもはるか昔から説かれてきた言説だが、キリスト教の教えや聖書の教えに反する、ということで、地動説はキリスト教圏内では禁じられた学問となっていた。
(キリスト教ではこの宇宙は創造主(神)が作ったものであり、その中心は地球である、と教えている)

実は、この『キリスト教圏内では異端の学問』として断じられてきた学問は『地動説』以外にも数々あり、そのせいでキリスト教圏内の学問はかなり遅れをとった、経緯がある。
(特に科学と自然哲学の分野)

有名なところでは、ダーウィンの『進化論』も、キリスト教圏内では聖書の教えに反する言説になる。
(『人間は神から生まれた』、『万物は創造主である神が創られた』、ということと矛盾するから)

キリスト教にとって聖書の教えは絶対であり、その教えに反する『科学』は、キリスト教が最も恐れた学問ということになる。

私の好きな映画の中に『薔薇の名前』という映画があるが、この『薔薇の名前』の中でも『清貧論争』という論争があり、聖書の解釈について議論する場面がある。
(この頃のキリスト教では、聖書の解釈による議論があり、議論に負けた方は処刑される)

それほどまでにキリスト教が権威的な時代であり、と同時に、腐敗と汚職と疑義にまみれ、弾圧や迫害が横行する時代だった。

その象徴たる存在が『異端審問官』。


異端審問官はキリスト教の教えと違う教え(つまり『異端思想』)を信仰する者を厳しく弾圧する機関。
(異端審問官は『チ。』にも『薔薇の名前』にも出てくる。)


別に私は、キリスト教や異端審問官が嫌いなわけでもなく、否定したいわけでもなく、ただこの物語の(『薔薇の名前』も同じく)、『そんな厳しい取り締まりの中で、まるで取り憑かれたように純粋に『知』や『真理』を追い求め、命がけで学問(真理)に向き合い、その資料と記録を次代に引き継いでいく』という部分において胸を熱くしている。

まさに『命懸けの学問』だ。

この物語は、『真理を後世に残す』そのために自ら命を絶つことを選ぶ人々が登場する。

というか、主要人物の大半が『真理』のために命を差し出し、人生を終える。

自分の命を差し出してでも、抗うことのできない人間の真理を求める『好奇心』こそが、キリスト教が恐れた最大の『敵』、ということになる。
(『薔薇の名前』でも禁書とされた書物のほとんど全てが、人々の『好奇心』に紐づくものだ)


如何ともしがたい人間の『知の欲求』。


『チ。』では地動説に関する『知識』が継承されていく。

この物語の核は『飽くなき知への探究心』と『知識の積み増しと継承』だ。

知を探求し、先人が遺した資料の中から新たな真理を見つけ出し、自説を練り上げ、『知の積み増し』をし、次代へ引き継いでいくー

そういう物語だと思う。


さて、2024年の12月、料理研究家のムラヨシマサユキさんが46歳という若さでお亡くなりになった。

ムラヨシマサユキさん、一般的な知名度はわからないが、お菓子作りをしてる人なら誰でも知ってると思う。

尾鷲市の図書館にもムラヨシさんの著書が何冊もあって、新しく入荷されるたびに借りており、とてもお世話になった。

特に面白かったのは
『ムラヨシマサユキのスコーンBook​』
『ムラヨシマサユキのベーグルブック』
という本。

この2冊はかなり『実験報告』のようなテイストの内容だった。

特にスコーンの『ベーキングパウダーとベンチタイムの関係』についてまとめたページはかなり興味深かった。

ベーキングパウダーの量を少しずつ変えた場合の生地の膨らみ方、あるいはベンチタイムの時間を少しずつ変えた場合の生地の膨らみ方について解説している。

『レシピ本』は、慣れてきたらもう、いわゆる、『作り方』を知るために読むものではなく、『食材の組み合わせのアイデア』を知るためのものであって、そういう意味においてレシピ本とは『実験結果報告』なのだと、個人的には思っている。

その実験をやってくれているのが料理家。
そしてその実験の結果を報告をしてくれているのがレシピ本。
レシピ本を読むのはその実験結果を読むため。

そういう意味において、料理家とは常に『研究・実験を繰り返してくれている人』であり、その背景には数々の失敗がある。

私みたいに、常に仕事に追われている人間は、『実験』(あるいは失敗)を繰り返す時間や余裕がない。

だから、できれば『実験結果だけ』を知りたい。

例えば、私はもうタルト生地ならタルト生地のレシピが完成してて、アーモンドクリームならアーモンドクリームの作り方は確立してて、だからもう今更タルト生地の配合を変えたり、アーモンドクリームの作り方を変えたりする必要はない。

だからその辺は全てスルーできるのだが(つまりお菓子のレシピ本によくある『基本の生地の作り方』とかは見なくて済む)、今まで見たことのないような食材の組み合わせなんかをしてくれてると『なるほど!』と思ったりする。
(だからお菓子のレシピ本はお菓子の『タイトル』が重要で、むしろそこしか見てないと言っても過言ではない)

ムラヨシさんはその辺がピンポイントに『わかってるなー!この人!』という感じの人で、毎回、新しいレシピ本が出るのが楽しみな料理人だった。

『私の代わりに実験をしてくれてありがとう!』

、といつも感謝しながら読んでいた。

私は、製菓の学校にも行ったことがないし、特定の師匠もいないので、先人たちが残してくれたレシピに、さらに知識を積み増しし、後世に引き継いでくれて、それを『公開』してくれている人は皆、私にとってはお師匠さんであり、恩人だと思っている。

ムラヨシさんもそんな私の偉大な先人でありお師匠さんであり、恩人だった。

ムラヨシさんが残したレシピは後世に生き続ける。
そしてその知識はまた積み増しされ、継承されていく….

料理はそうやって発展してきたし、そうやって引き継がれていくのだと思う。

改めて、ムラヨシさんのご冥福をお祈りします。
たくさんの『知』を授けてくださり、ありがとうございました。


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