見出し画像

コーヒーを『表現』するということ

毎日暑い日が続いている。

こんな日は、ビターなアイスコーヒーが身に沁みる。


アイスコーヒー、英語表記では『Iced coffee』となる。

関西では『レイコー』と言う人がいるがこれは『アイスコーヒー』→『冷たいコーヒー』→『冷コーヒー』→『レイコー』となったもの。

ホットコーヒーのことをを単に『ホット』と言うのも、関西発祥らしい。

ホットコーヒーを『ホット』、アイスコーヒーを『レイコー』と略したのは関西人がせっかちだからだ、という説がある。(諸説あり)

今は昔ながらの喫茶店もなくなり『レイコー』を使う人は少なくなったが、時々カフェスケールでも『レイコー』と言う人はいる。

さて、アイスコーヒーは、日本発祥と言われている。

アイスコーヒーには深煎りの豆が用いられることが多い。

個人的な見解だが、これは日本人独特の味わい方、『のどごし』に関わるものではないか、と思っている。

日本で一番売れているビールは『アサヒスーパードライ』。

飲んだことがある人はわかると思うが、『アサヒスーパードライ』は辛口で、特に『キレ』を追求した飲み口になっていて、『舌で味わう』というよりも『喉で味わう』ような飲み物になっている。

ビールの味をゆっくりと味わって飲む、というよりも、グビグビっと飲んで爽快感を求めるような飲み方をする人が、日本人には多い、ということ。

言い方を変えれば『喉に負担をかけるような飲み方を楽しむ』ということで、さらに喉に負荷をかけるためにここに『辛口』や『キレ』を強調している、ということ。

この飲み方をアイスコーヒーに置き換えた場合、やはり『酸味があり喉にひっかかりを感じるような飲み方』ではなく、『苦味を強調し、喉通りが良く、爽快感のある飲み方』を求めるようになるので、必然的に深煎りの豆が好まれる。
(さらに苦味のあるコーヒーは、酸味のあるコーヒーに比べ、ミルクやクリームやシロップ類との相性が良く、アレンジに向いている、という特性もある)

私も、アイスコーヒーに爽快感を求めるような飲み方をすることがあるが(暑い夏の日は特に)、その時のオススメの飲み方としては、ブラックのコーヒーをストローを使わずに直接グラスに口をつけて飲む、という飲み方。

長年、アイスコーヒーは舌で味わう飲み物ではなく、喉で味わうものだ.....と思っていた。

......しかし、先日の東京旅行にて、その常識が覆った。

蔵前にある『蕪木』というお店で飲んだアイスコーヒー。

これまで私が思っていたアイスコーヒーの味わい方と全然違っていた。


『衝撃的なアイスコーヒーの話』


東京旅行の最終日、ホステルをチェックアウトしてまずは、蔵前にある『蕪木』というお店に行った。


『蕪木』は、蕪木祐介さんという方がオーナーのお店で、『珈琲の表現』という著書を出されていたり、盛岡にもお店がある。
(お店には蕪木祐介さん本人がおられた)

佇まいは薄暗い、BARのような暗さ。

写真撮影はご遠慮ください、
2人以上のご来店はできません、
静かにお願いします、

と、制約の多いお店だったが、

さしずめそこは、利休の茶室のような静けさがあった。

照明は極力抑えられていたが、窓から差し込む日差しが、リネンのカーテンに当たって、それが柔らかく店内を明るくしていた。
(カフェスケールの定休日のような感じでだった)

BARのような静けさだったが、客を緊張させるような空気感は一切なく、レコードから流れるピアノ曲が心地い雰囲気だった。

喫茶室は二階にあって、カウンター席6席ほど。
テーブル席は、2人がけ席が4つ。

まずちょっとびっくりしたのは、(注意深く観察しないとわからないのだけど、)、カウンターの内側、つまりお店の人がコーヒーを作ってくれるスペースの両端が壁になっていて、バックヤードに行けるようになってる....のではなく、そこは階段になっていて、階下に降りるようになっている。

すっと壁の向こうに行ったかと思えば、トントンと階下に降りたり、トントンという階段を登る音と共に壁からすっと出てくる....

そう考えると作業スペースが何だか『演劇の舞台』のようになっている感じがして、そう思うと、もう、何かを演じているお店の人と、それを見ている観客のような関係性になっているのが面白くて、それもまた、何だか、、、、千利休が今の時代に、現代風に茶の湯を解釈したらこんな感じになるんじゃないか、と思った。

そして何より衝撃だったのは水出しのアイスコーヒー。

1杯目は深煎りのホットを頼んで、2杯目に水出しのアイスを頼んだ。

注文するとお店の人が冷蔵庫から冷えた瓶を取り出し、ワイングラスにアイスコーヒーを注ぐ。
氷は無し。
シロップもミルクも、マドラーもストローも無し。

「このままお飲みください」

という意思が伝わってくる出し方。

ワイングラスに注がれたアイスコーヒーの水色(すいしょく)は、赤みを帯びていた。

これは....浅煎り?

まるで赤ワインのような水色のアイスコーヒーを口元に運ぶとまた驚き。

香りまで赤ワイン。
深煎りの独特の焙煎香ではなく、浅煎りのフルーティな香りが漂ってきた。

そして味。
なんと味まで赤ワイン。

酸味のある、でも後味にひっかかりのない、まさにフルーティなアイスコーヒーだった。

浅煎りのアイスコーヒーをここまで『ひっかかりがない』後味にすることはなかなかに難しく、でも『蕪木』のアイスコーヒーはフルーティさと後味の良さを両立させた、今までに飲んだことのない味だった。

先述の内容に関連することだが、後味や喉越しに重点を置くとどうしても深煎りになるし、日本生まれのアイスコーヒーのそれはビールを味わうのと同じ発想だと思う。

しかし『蕪木』のアイスコーヒーのイメージは赤ワインだった。

コーヒーのフルーティさに重点を置いただった。

私もかつて浅煎りの豆でアイスコーヒーを淹れたことがあるが、後味が悪すぎてとても飲めたものではなかったが、『蕪木』のアイスコーヒーはそれもなかった。

おそらく『水出し』という抽出方法を選んだのは、極力浅煎りのコーヒーの持つえぐみや雑味を取り払う抽出方法を模索した結果なのだと思う。

そしてワイングラスに入れて飲む、というのもポイントだと思う。

ワイングラスだと、どうしても少しずつ飲むようになり、喉ではなく舌で味わう飲み方になってしまう。

空間も、グラスも、抽出方法も、飲ませ方も、全てが『理にかなった』ものだった。

蕪木祐介さんの著書のタイトルが『珈琲の表現』であるように、アイスコーヒーという飲み物を、ビールではなくワインとして『表現』したものとなっていた。(と、感じた)

『本流』から枝分かれしたいくつもの『支流』がある中で、その『支流』のひとつが辿り着いた極北を、この目と肌と舌で感じてきた。

東京の旅行ではこの『蕪木』と、『喫茶 半月』で飲んだ珈琲が感動的で、こんなお店作りをしてみたいと思うような素敵なお店だった。


cafe Scale
『お店のこと。』お店のインフォメーションはコチラ↓

カフェスケールの日替わりメニューのお知らせや連絡先は以下からご覧ください。

インスタグラム
cafe ScaleのInstagram → https://www.instagram.com/cafe_scale/
(ランチメニューを『ストーリー機能』でお知らせ)


いいなと思ったら応援しよう!