ドキドキ不在連絡票
ある日帰宅すると、宅配便の不在連絡票が投函されていました。
荷物の受取人としてわたしの名字が大きく記されているのを確認し、その下に小さく記載されている送り主の名前を見て、驚きました。
なんと、20代の頃におつきあいしていた元カレの名前だったのです。
懐かしい名前に、久しぶりにドッキーンと不整脈でも起こしそうなほど興奮し、一刻も早く再配達をお願いせねばと、さらに心拍数を上げ続けるわたし。
その元カレとはもう何年も会っていないし、最後にやりとりをした時も彼は海外在住とのことで、以来十数年間音信不通でした。
だから突然の送り物は謎で、すぐにでもその荷物を確認したくて逸る気持ちを抑えつつ、不在連絡票を手に問い合わせるも、当日中の再配達は不可とのこと。
さあそれから再配達までの約20時間、わたしのドキドキ妄想タイムが始まりました。
もともとマメな人ではなかったけれど、何の連絡もなくいきなり宅配便を送ってくるなんて、いったいどういうことなのでしょう。
最後にやり取りした際に、わたしの店のブログを読んでくれていると言っていたから、もしかしてもしかして、今もわたしの書いた文章をどこかで目にして懐かしく思って、それで何かを送ってくれた、とか?
だとすると物だけじゃなくて、手紙とか、入っているのかなあああ。
万が一、「会いたい」なんて書いてあったらどうしよう? ひゃあああ。
なーんて一人でバカみたいに盛り上がっているうちに、ふと、全く違う可能性がよぎりました。
何年も音信不通の元カノに、今更何の通知もなく唐突に送り物などするでしょうか?
しかもお互い既婚者です。
さすがにあり得ない。
ということは、まさか、彼、死んだとか?
ご遺族が遺品からわたしに関わる何らかの思い出の品を発見し、律儀に彼の名前で送ってくれた、とか?
考えてみれば彼はすでに50代後半。
若い頃は健康の塊のようだったけれど、何か体に異変があったとしてもおかしくはない年齢です。
能天気なドキドキと、不安と心配のドキドキを行ったり来たりして、完全に妄想に翻弄される再配達までの約20時間。
そして、翌日ついに待ちに待った荷物がやってきました。
前のめりで箱を受け取り、その意外な重さに「え、金塊?」と驚きつつ送り状を確認すると、やはり送り主の名前は懐かしきあの彼のフルネーム。
そして、受取人の名前を改めて確認したところ、そこにわたしの名前はなく、わたしの夫のフルネームが記されていたのです。
え? どういうこと……?
そう、荷物は夫が注文した機械の部品で、送り主は岡山あたりの部品販売をされている個人業者さんで、元カレとは同姓同名のまったくの別人でございました。
そういえば、けっこうありがちな名前かも。
だけど別人である可能性なんて、元カレの名前に興奮しすぎてこれっぽっちも考えませんでした。
不在連絡票には、送り主はフルネームなのに受取人欄は名字だけだったので、てっきりわたし宛だと思っちゃったんですよね。
あのドキドキの20時間、返してー。
でもけっこう楽しめたから、まあいいか。
それにしても、妄想が暴走した自分の自意識過剰っぷりと、その後のテンションの下がり具合に我ながら呆れます。
運動もサウナも体験せずに、心臓を酷使した約20時間でした。