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除雪機をめぐる戦い

久しぶりにコンスタントにジワジワと雪の降る今シーズン。
18年目の山暮らしの冬も、絶賛除雪中です。

当店には、現在3台の使用可能な除雪機があり(使用不可のものも1台あり)、吹き飛ばさない押すだけタイプを入れると、エンジン搭載除雪機は計4台あります。
過去に在籍した除雪機を数え挙げると、のべ10台(わたしが使用したのは5台)にものぼり、本当に多くの古い除雪機が当店を支えてくれて、そして去っていきました。

ちなみにこの辺りの普通のお宅であれば、除雪機は1台で充分。
そして新品を買えば一生物です。
それなのに、夫は常にネットのオークションサイトで中古除雪機の情報をチェックしています。
「これなんか、nakazumiさん専用にいいと思うんだよね」などとブツブツと呟きながら。
10年くらい前までは、
(はあああ? わたし専用の除雪機なんて要らない。あなたが除雪してくれればそれでいいの。わたしは除雪機よりも、素敵なバッグや靴や服が欲しい)
と思っていたのですが、今ではわたし専用の当店史上最新(と言っても20年落ち)の素敵除雪機をあてがわれ、ゴキゲンで除雪しています。
そして日々除雪機を使いながら、「雪深い地域には2種類の女がいる。『除雪機を使う女』と『除雪機を使わなくてすむ女』。はたしてどちらが幸せか」などと不毛なことを考えたりしています。

さて、どうも夫は「これは」と思う中古機械に巡り会うと、「欲しい、直したい、取りに行きたい」と思ってしまう性分のようです。
中古機械なら何でもいいわけではなく、機械から漂う「やる気」を感じないと食指は動かない様子。
その「やる気」とは、具体的には「除雪機の刃がまだツヤツヤしている」とか、「マフラーの周りのプラスチックが焼けていない」とか、「ガソリンタンクの色が変わっていない」とか、だそうです。
そしてそのような「やる気」が見えたとしても、ちょとしたネジが無くなっているとか、ある部分が突出して摩耗している、などの異変も同時に発見されるので、それらの情報から前の持ち主が手放した原因を推察して、総合的に入手するかどうかを判断するらしい。
サイトにアップされた商品画像を拡大しては、鑑識のような眼差しで注意深く観察し、ねちっこい探偵のようにアレコレ推理しております。

そうやって新品ではなく中古品を物色する行動には、くたびれて壊れた機械の状態から、どんな持ち主にどんな使われ方をしてきたのか、どこに問題があって、自分の手によってどんな可能性が望めるのか、そういったことに思いを巡らせるロマンがあるらしい。
わたしにはまったくわからないけれど、ロマンの感じ方は本当に人それぞれ。

ある時、夫はネット上で魅力的な「やる気」のある除雪機を見つけたようで、比較的近い地域であるJ市からの出品だったため、取りに行くには近いし、かなり熱心にオークションサイトで競り合っていました。
でも結局、最後まで競り合った相手に負けてしまい、「あーあ、オレのところに来るべき除雪機だと思ったのに」とずいぶん落胆しておりました。

するとその翌日、やはり夫と同じく中古機械にロマンを感じるご近所のKさんから、「軽トラを貸してほしい」と連絡が来ました(わが家には薪運びに重宝する軽トラがあります)。
夫が、何に軽トラを使うのか尋ねると、「J市に中古除雪機を取りに行く」とKさん。

え? J市? 中古除雪機? 
その除雪機ってまさか……。

そう、夫がネットオークションサイトで競り合って負けた相手は、なんとKさんだったのです。
ネット上ですから、お互いに競り合っている相手が誰かわからないまま、白熱の争いを繰り広げていた模様。
膨大な情報が溢れる広大なネットの海の中、同じ除雪機を競り合っていた相手が、親しい中古機械ロマン仲間の、しかもご近所さんだったなんて。

そういうわけで、夫はオークションで負けた相手に軽トラを貸し、手に入れることの叶わなかった除雪機が、ライバルに引き取られていく様をまざまざと見せつけられて、涙をのんでおりました。

意外と世界は狭いと知る除雪シーズンです。


※トップ画像は、過去に在籍した小さめ除雪機3兄弟です。

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