嬉しい再会
数年前の出来事です。
爽やかによく晴れた日のオープン直後、その日の風のように爽やかな美人さんがご来店して、これまた爽やかな笑顔で一言。
「M先生ですよね?」
え?!
わたしの旧姓はたしかにMですが、でも、「先生」?
M姓時代に「先生」と呼ばれる職業に就いたことはありません。教師も医者も弁護士も政治家もやったことありません。
ただし。
大学時代の教育実習と家庭教師のバイトの時だけ、「M先生」と呼ばれました。ものすごく限られた時期の限られた人だけに、そう呼ばれました。
えっ?! 誰?
わたしがクエスチョンマークで頭を一杯にして目の前の女性を見つめていると、彼女が言いました。
「Aです! 家庭教師でお世話になった……」
あああああああ!!!
Aちゃん。よく覚えています。かわいかったなあ。たしか小5から中1まで教えたと思います。賢くていい子だったなあ~。
え? この目の前の落ち着いた大人の女性が、Aちゃん? 全然、記憶の回路がつながりません。
そういえば、この出来事の少し前にAちゃんのお母様が、偶然わたしが営む喫茶店にいらっしゃったのです。長野は小さな街だし、長いこと暮らしている場所なので、知り合いが偶然ご来店というケースは少なくありません。
もちろんお母様はわたしにまったく気づかなかったのですが、わたしはすぐわかりました。
家庭教師をしていたのは20数年前(現在からは30年ほど前)ですが、お母様は当時と変わらずお若くて綺麗で、あんまり嬉しかったのでわたしから声をかけたのです。
お母様は、Aちゃんが今お母さんになっていて、元気に暮らしていると教えてくれました。そして、「先生が喫茶店やってるって、伝えておきますね」とおっしゃってお帰りになりました。
「あー、それでAちゃんわざわざ来てくれたんだね! 嬉しいよ!」と感激するわたしを前に、Aちゃんはさらに驚きの言葉を発しました。
「母から聞いてビックリしたんですけど、私、ここ何度も来てるんですよ! でもここのオーナーさんがM先生だなんて全然知らずに来てました」
え。
わたしも全然気づきませんでした……。
何度も来てくれていたのに顔も覚えず、さらには教え子の顔はわからなくてお母様の方はわかるって、どうなってんの、わたしの記憶システム。
でも当時30代半ばであったであろうお母さまが、現在アラ還になっていても比較的わかりやすいと思うんです。
対して13歳の女の子が37歳になってるんですよ。これはわかりません。
そして22歳の家庭教師が46歳になっているのもわからないものなのですね?(どういうことでしょう?)
Aちゃん、本当にすっかり大人の素敵な女性になりました。仕事も留学も頑張って、良い人と結婚してお母さんになって、幸せに過ごしているようです。
家庭教師をやっていた頃の大学生のわたしは、当時中学生のMちゃんに、「彼氏は吟味に吟味を重ねて選べ」とアドバイスしたようで(なんだソレ)、Aちゃんはその教えをきちんと守ったとのこと。
20歳そこそこの小娘(わたし)がエラそうにアドバイスしておいて、自分はどうなんだ。滑稽。赤面もの。
それはともかく、あの美しい大人の女性が、教え子……。
なんか、わたし、年取ったなあ……(遠い目)。
でも、嬉しかったです。
というわけで、皆様意外と、知らないうちに懐かしい人と、すでに出会っている可能性アリです。
あー、人生って繋がってるんだなあ、と思った数年前の爽やかな日の出来事でした。