見出し画像

お店冥利に尽きること

年内最後となる先週末の営業を、有終の美で飾ろうとラストスパートをかけたつもりが、インフルエンザに罹ってしまいました。
高熱にうなされて、丸二日間布団の中で時間の感覚を失っているうちに、今年の営業日が終了。
わたし一人で営む店ですので、わたしが寝込むと店を閉めざるを得ません。

このように、店をやっていると大変なこともありますが、「お店やってて良かったなあ」と思うこともたびたびあります。
もちろん、たくさんお客様が訪れてくださるのは嬉しいけれど、お店冥利に尽きるのは、必ずしも繁盛した時だけではありません。

「本日のお客様、今のところただ1人」という、少なからず当店を襲う危機的状況のある日の午後のこと。
ご近所のMさんがご来店されました。
「今、お店の前を通りかかったら、車が1台も停まってなかったから、来ちゃったー」と。
そんな優しいMさんとしばらくおしゃべりしていると、たまたま別のご近所様もご来店。
「あらどうもー」「ご一緒していい?」という感じで加わり、さらにまた1人、そしてまた1人という感じで、あっという間に店内には顔見知り同士の男女4名のお客様が集合して、おしゃべりタイムに。
こういう、「待ち合わせたわけではなく、偶然居合わせて会話が弾む」という光景を目の当たりにするのも、人が集う場所になれた気がして、「お店やってて良かった」と思う場面のひとつです。

また別のある日。
スラッとした背の高い素敵な女性のお一人様がいらっしゃいました。
初めてご来店された方ですが、見覚えがある……。
すぐに、20代の頃に勤めていた職場の、同じ部局内にいたTさんだと思い出しました。
当時、書類の受け渡し時に挨拶を交わす程度だったのですが、同年代のTさんはいつも姿勢よく、優しい笑顔で感じが良くて、書類を持って行くたびに、とっても良い気分になっていたわたし。

その時点から考えると再会は約20年ぶりだったのですが、驚いたことにTさん、まったく年を取ったように見えず、髪型も雰囲気も変わっていませんでした。
だからすぐにあの時同じ部局にいたTさんだと確信したわたしは、恐る恐る尋ねました。

「あの、以前○○にお勤めではなかったですか?」

するとTさんは、「ええ、はい!」と驚いてこちらを見つめます。
一方、わたしはそれなりに年を重ねて髪型も風貌も変化している自覚があったため、即座に「○○課にいた、当時○○という名前でした」と名乗りました。
そういえば、名前もややこしく変化しておりました。
すると、すぐに「ああっ! えっ? こちらのお店をやってらっしゃるんですか?!」と驚くTさん。

こんなふうに、わたしが営む店と知らずに、偶然昔の知り合いが訪れてくださるというのも、「お店やってて良かった」と思うケースです。
もちろん、知ってて訪れてくださるのも嬉しいのですが、また別の感慨深さがあります。
長野は小さな街なので、これまでもそんな『知人が偶然ご来店』ということは意外にも度々あって、やっぱり嬉しいです。

「お店冥利に尽きる」こと、これだけに限らずいろいろあります。
いつもの常連様が、いつものように来てくださることも、わたしの書いた文章を読んで遠方からわざわざいらしてくださるお客様も(最近増えました。嬉しい限りです)、お一人様がゆっくりと読書してお一人様を満喫していかれる様子も、お一人様だった方が幸せそうに素敵なパートナーを連れて来たり、さらにはお子さんが生まれて家族が増えていくのを眺めることも、挙げ出したらきりがないけれども、みんな「お店やっててよかった!」と思える瞬間です。

そして実は、「グループのお客様の予約で満席」や「団体様の貸切」よりも、お一人様やお二人様がふらっと訪れて、余裕のあるお席で、皆様静かに読書や珈琲を楽しんでいらっしゃる、という状況の方が、当店の場合はお店冥利に尽きるのです。
もちろんどんな形でのご利用もありがたく嬉しいものですが、自分が思い描いた店の形が実現した喜びに浸れるのは、ゆとりあるお席で静かな時間を楽しまれるお客様の姿です。
以前、夕暮れ時にお一人様のお客様5名様がそれぞれ別々のテーブルに座られて満席で(当店は店内5テーブル12席)、そして皆様読書をされている、という光景に、なんとも幸せな気持ちになりました。
経営者としてはダメなのかもしれませんが、それでもこの喜びを感じながら継続していくことが目標です。
きっと、お客様も静かにゆったりと過ごせる環境の方が心地よいですよね。

皆様、いつもありがとうございます。
ラスト3日間の営業を臨時休業してしまいましたが、おかげさまで今年の営業を終えることができました。
できるだけ長く店を続けて、いろんな方々の人生の片隅に、こっそり登場する小さなお店になりたいなあと願う年末です。

いいなと思ったら応援しよう!