おかわり珈琲
外国からのお客様がいらした時のこと。
アジア系の方で見た感じは日本の方に見えてしまったため、英語メニューを渡しそびれてしまったのですが、そのお客様は日本語メニューを見て、流ちょうな日本語で最初のオーダーとしておっしゃいました。
「『おかわり珈琲』をください」
と。
当店では珈琲は「オリジナルブレンド」と「本日の珈琲」(いずれも450円)と、「おかわり珈琲」(200円)があります。
外国人のお客様だと思っていなかったので意表を突かれたわたしが、「あ、申し訳ありません。『おかわり珈琲』は、まず通常の珈琲をオーダーしていただいた後に、追加でもう1杯ご注文いただく際に200円で提供しておりまして……」と日本語で説明。
すると、そのお客様は照れる風でもなく、「では『通常の珈琲』をお願いします」と冷静に、そしてやはり流ちょうな日本語で、注文し直されました。
その後、お連れ様と外国語でのおしゃべりを始めたため、そこで初めて外国からのお客様だと気づきました。
そしてそのお客様はゆっくりとおしゃべりと珈琲を楽しんで、お帰りになりました。ありがとうございました。
わたしにとっては、「まず初っ端におかわり珈琲のご注文」という斬新すぎるオーダーで印象に残ったため、そのエピソードをさっそく姉に報告したところ、姉が言いました。
「『お変わり』っていう『変わった珈琲』だと思ったんじゃない?」
あああ! そうか!
たしかに、メニューには『おかわり珈琲』とひらがな表記で記載してあります。
そう考えると、『おかわり珈琲』は、本来の意味である「もう一杯」の意味以外にも、何やら風変わりな珈琲である『お変わり珈琲』、あるいは飲みたいはずの何かの代用としての『お代わり珈琲』も考えられます。
まさかとは思うけれどちょっと意味がわからない『丘割り珈琲』の可能性も。
さらに、「『おかわり』ありませんか?」は、「もう一杯ご注文ありませんか?」の意味もあれば、「恙なくお過ごしでしょうか?」の意味もあります。
日本語、難しいですね。
日本語しかできないわたしは、日本語を駆使する外国の方々って本当にすごいなあと思います。
もちろん、外国語を駆使する日本の方々も。
ちなみに「おかわり珈琲」は、当店の英語メニューでは「refills」とあります。
山の中の小さな喫茶店ですが、外国人のお客様はたびたびいらっしゃるので、数年前に英語が堪能なご近所さんに英語メニューを作ってもらいました。大変勉強になります。
近くにめぼしい観光名所もないひっそりとした森の中に当店はあるのですが、海外のお客様は意外な頻度でよくいらっしゃいます。
しかも、当店の場所柄、お車でご来店されるお客様がほとんどなのですが、外国人のお客様はほぼ徒歩にてご来店です。
すぐ近くにバス停があるので、おそらくバスでいらして森を散策されているのでしょう。海外の方々は本当によく歩かれますね。
こんなひっそりとした異国の辺鄙な森の中の小さな店に、自分だったら海外旅行でわざわざ訪れて入るだろうかと思いつつ、でもそんな店でよい思い出ができたら嬉しいだろうなあ、と思いながらお迎えしております。
ただ、何語で話しかけられようとも、店主はほぼ日本語で対応しております。すみません。
最近は、スマホの翻訳機能でわざわざ丁寧なお礼の翻訳文を見せてくださるお客様もいらして、本当にありがたく嬉しくなります。
が、それを見て、「Thank you」と繰り返すことしかできないもどかしさ。
まあ、たとえ日本語でのやりとりだとしても、たいしておしゃべりできない非社交的な店主なのですが。
外国からのお客様も日本のお客様も、「おかわり珈琲」と共にどうぞゆっくりとしたひとときを。
お待ちしております。