【ショートショート】 分別できません
「はぁ、めんどうくさい・・」
なんで休みの日に地域のボランティア清掃に参加しなけりゃいけないんだ。家で寝ていたいのに、町内会長から懇願されてしぶしぶやってきた。
「じゃあ、あなたはこの個人事業主のエリアをお願いします」
そういって半透明の袋をふたつ渡される。
「こっちの袋には落ちている「公」を、こっちには「私」を入れてくださいね」
近頃は分別も細かくなった。昔はなんでも一色たんにできたのにな。
気は乗らないが、こういうことはさっさと終わらせるにかぎる。
なけなしのやる気を出して、公私がゴチャ混ぜに落ちている個人事業主の道にむかう。
「おっ、さっそく落ちてる」
拾い上げたのは、「飲食代」である。
「食ったもんは「私」の方だろうな」
そういって袋に入れようとして手が止まった。
「いや、待てよ」
打ち合わせや接待で使ったのなら「公」の方に入れなければいけない。そう思いなおして「公」に入れようとしてあることに気がついた。
「あれ?これ、くら寿司のじゃん」
きっと家族で行ったのだろう。「私」に決定だな。
「いや、待てよ」
もしこの人が飲食事業者なら、家族で行こうがなんだろうが、食したものは勉強代ということになるかもしれない。しかし、それを言い出したら毎日の食事は全て勉強代になってしまうじゃないか・・・。
「・・・なにも見てません、と」
そっと元の位置に戻しておいた。
「他にないかな。おっ、ここにもあった」
拾い上げると、それは「よい人間関係」であった。
「ああ、これは「私」だな」
そう思って、袋に入れようとしてまた手が止まる。
「社会人になって、純粋なプライベートの人間関係なんてあるだろうか?」
仕事での人間関係は経済的な結びつきでドライな人間関係、プライベートの人間関係は社会的な結びつきでよい人間関係。はたして個人事業主はそんな簡単に割り切れるものだろうか?むしろ、学生時代の友人よりも、仕事を通じて知り合った人の方が同じ価値観を共有できるよい人間関係と言えるのではないか・・・。
「・・・なにも見てません、と」
そう言って、また元に戻しておいた。
「いかん。もうすぐ時間だ」
このままでは何も持ち帰らず、サボっていたと思われてしまう。道がキレイになるかどうかなんてどっちでもいいが、奴はやる男だという印象は残したい。とにかく「公」でも「私」でもいいから持ち帰らなくては。
「おお!デッカいの発見!」
落ちていたのは「仕事」そのものだ。
「仕事はさすがに「公」だよな。これが「公」じゃなきゃ、いったいなにが「公」だというのよ」
しかし、あまりに大きすぎて袋に入らない。悪戦苦闘しているところに、会長がやってきた。
「もどりが遅いから様子を見にきたんだけど、いったい何やってんの?」
「見ればわかるじゃないですか。この落ちてた仕事を「公」の袋に入れようとしているんですよ。」
やっている感を醸して、できる男をアピールする。
「あんた何言ってんの?ここは個人事業主のエリアだよ。仕事のなかに「私」もどっぷり入ってるんだから「公」に入れちゃダメだよ」
「えっ?じゃあ、個人事業主の仕事は私的なものなんですか?」
「そんなわけないじゃん、仕事なんだから」
「じゃあ、こいつはいったいどう処理すればいいんです?」
「・・・見なかったことにするか?」
「・・・」
「なんだよ、その目。あんただって何ひとつ拾ってないじゃないか。適当に分別すると、あとで役所の人に怒られるんだよ」
「会長、「飲食代」や「いい人間関係」は個人事業主の場合、公私のどちらに振り分けるといいですか?」
「え?そんなのも落ちてたの?公私なんて後から誰かが勝手につけたレッテルなんだから、個人事業主の営みをキレイに分けることなんてできないでだろ?」
途方にくれて二人で雑多に公私の落ちた道を改めてながめてみる。
「いったい何なんでしょうね、個人事業主って・・・」