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保健所の抜き打ち検査
「マスター!保健所の方がいらしてます」
配達を終え、着替えようとしているところにスタッフが呼びにきた。
営業許可の更新手続きは来月のはず。なぜ連絡もなしに、しかも直接お店にやってくるのだろう?
疑問に思いつつ、お店に出て入り口に立つ保健所の職員の方に問いかけた。
「何でしょうか?」
「今日はこの辺りの更新が近いお店を回っておりまして、今からカウンターの中を拝見してよろしいでしょうか?」
ほお、これは抜き打ち検査だな。
飲食店は営業許可を取るために、厨房設備などの決まりがいくつかある。確認にくる日が事前にわかっていると、普段検査に引っ掛かるような仕様変更をしているお店でも取り繕うことができてしまう。
しかし、抜き打ちで確認するとは知らなかった。
「いや、今は忙しいので・・」と断りかけたが、店内はノーゲストでスタッフも暇そうにしている。「こんな日に限って・・」と思ったが、だいたいいつも暇であることを思い出した。私はしぶしぶ見てもらい、特に問題は見つからず、いくつか規制が変わったことを伝えられ終了となった。
しかしその後、一枚の書類を取り出して妙なことをいうのである。
「店主さんは今は引っ越されて、こちらにお住まいではありませんよね?」
「はい。以前はここに住んでいましたが、今は別のところに住んでいます」
「個人事業主の方は、居住先の住所もこちらの書類に書いて提出していただくことになっています」
と、ここまではよかった。
「こちらの内容は原則公開になります。もし非公開にしたければ、ちょっと分かりづらいですが、こちらのチェックボックスに印をつけてください」
指で刺した箇所を見ると、「官民データ活用基本法に沿って原則オープンデータとして公開します」となっており、事業主の名前や住所などがチェックボックスと一緒に並んでいる。
「・・・。公開って誰が見るんですか?」
「どなたでも見れるようになっています」
驚きである。個人事業主は店だけではなく、住んでいるところまで公開することになっているらしい。
「何のために?」
「・・・、お店のことを知りたいと思う人がいるからではないでしょうか?」
「それは、『食べログ』で十分じゃないですか?」
「ファンに知れたらえらいことになる」と一瞬思ったが、よく考えたらそんな人は一人もいない。しかし、これでは知りたいと思えば個人店のオーナーの住所は簡単につかめてしまう。この分かりづらい非公開のチャックボックスやこの人のような説明では、意図せず公開になっている人も多いのではないかと思ってしまった。
「プライバシーの問題にはならないんですか?」
「そう決まっておりまして・・」
お役所のいつもの返事を聴き終える前に、しっかりと目の前でチェックを入れてやった次第である。