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フランスにはない「懐かしい」という感覚と季節感


日本の歌は季節が流れるだけだという彼。

たぶん、彼にはそうとしか聞こえないんだろう。

それも仕方ない。
ヨーロッパに来て思う。

こんなにも季節を重んじる国は日本くらいなんじゃないかと。

季節ごとの行事、企業のプロモーション、音楽、手紙の文章など。
またそれだけじゃなくて、もっとこう日本人の無意識に潜む感覚。
例えば、空の高さ、虫の音や草木の色。
そういうもので、季節の移り変わりを感じているんじゃないだろうか。

そして、そういう季節のヒントは、同じ季節のいつかの記憶を呼び起こす。
私は冬が始まるしんっとした冷たい空気に、中学の時の駅伝の練習を思い出す。

日本人の我々にはそう言った感覚がどこかにあると思う。
生暖かい春の風に、卒業式に別れた好きだった先輩を思い出すとか、ちょっとそういうのしか浮かばないけど笑
でも、もっとある。無意識だから。
きっとその季節になればふっと思い出す。


そういう感覚はフランスにはあるんだろうか。
虫は鳴かないし、なんと言っても春とか秋みたいな曖昧な季節の象徴があまりないように感じる。

冬はどんよりと夏のために耐え、夏は思う存分弾けるように感じる。それは私が日本人だからなのだろうか。

だとすれば、まさにこれは、日本人の曖昧で儚くて、掴みどころのないものを愛でるという文化なんだろう。

季節の移ろいは、人生の記憶を思い出し、懐かしむもの。
そう、フランス語には"懐かしい"という言葉はない。ノルタルジーはちょっと違うみたい。もっと後悔とかネガティブ要素が強そう。

彼が「日本人って懐かしいってよく言うけど、なんでそんなプライベートなことを他人と共有するの?」と言っていたけど、今その謎が解けた気がする。

日本人は季節感という共通の感覚があって、懐かしむのは季節がもたらす記憶であって、それはプライベートな記憶というよりは、共通の感覚的な記憶なんだと思う。


季節が流れる、そのことがもたらす感覚は「懐かしむ」ということを通して、日本で生きる人の時間を豊かにしている。

日本人でよかったと、こういうとき思う。

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