ビートたけし 小説 「キャバレー」
面白い小説だった。
読み終えたあと、うっすらと涙が目に浮かび、思わず笑顔になって、きみまろ良かったなあ、なんて勝手に嬉しくなってしまった。
実名がバンバン出てくるこの小説。
フィクションと謳ってはいるが、おそらく実体験を基にして書かれている部分もあるだろう。
時代と共に、売れるまでの道のりは変わっていくのかもしれない。
それでも売れないときの苦労、苦悩は時代を超えても変わらない。
安月給にボロアパート住まいの生活。
そして、欲しいものと言えば 豪華な家、高級車。
うまいもの食べて、いい女はべらかせて、高級ホテルを渡り歩く…そんな優雅な生活。
しかしこの小説では、それらを得たところで虚しさしか残らないことを教えてくれる。
悔しくて悔しくて、ただひたすら這い上がろう、認めさせてやろう、そんな気持ちを持ち続けて、それが叶ったとき。
自分の中に残るのは物ではなく、達成感なのだ。
その達成感が、「世間に認められた」という証になるのかもしれない。
昭和の香りのするこの小説。
所々にたけし特有のギャグ、ユーモアが散りばめられていて、クスっと笑ってしまう。
終盤、畳み掛けるようにきみまろが認められていく過程は、自分も一緒に苦労を共にしてきた仲間だと錯覚し、嬉しくなり、応援してしまう。
今、テレビを賑わせている芸人のほとんどは、この小説のきみまろのように、人知れず苦労を積み重ねてきた人たちなのだろう。
プロは人に苦労した姿など見せてはいけないのかもしれない。
だけど、彼らの下積み時代を知ることで、より彼らの人間味を感じ、より一層応援したくなる。
もし、本物のきみまろの舞台を観ることがあったら、大笑いしたあと、泣いてしまうかもしれない。
それは芸人からしたら、本望ではないのかもしれないけれど。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?