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カカオをめぐる冒険⑥ 2022年9月タイ・ペッチャブーン県

ペッチャブーン2日目の朝

朝目覚めてホテルの周りをウロウロする。昨晩は暗くて分からなかったが、椰子の木が生い茂っていて南国の清々しい朝の雰囲気が漂っている。ニワトリの鳴き声や小鳥の囀りもすぐ近くから聞こえてくる。
ずっと1人旅だったので、初対面の人と同室はやはり少し緊張してしまい、あまり良く眠れなかった。けれど今日は晴れていて清々しい気持ちに。

ビーさん一家が迎えにきてくれた。途中、街のセブンイレブンで朝食とSIMカードを調達。昨日伺った加工場兼事務所に向かう。従業員の人たちは既に何人か仕事をしていた。

会社の犬に挨拶

カカオの収穫にチャレンジする

晴れているうちにと、朝から皆でカカオの収穫に向かった。大きなカゴとはさみを持って農園の奥にとんどんと入っていく。カカオの木の下は日陰になっていて少し涼しい。
従業員の女の子が、私がちゃんと着いてきているか、時々後ろを振り返りながら気に掛けてくれていた。

しばらくして、たくさん実がなっているところに到着。皆それぞれに収穫を始めた。私もハサミを借り、やり方を教えてもらいながら見よう見まねで収穫させてもらった。

カカオは低木で、カカオの実も低い場所に実っている。落葉でふかふかの足元を踏みしめて、蜘蛛や小さな虫にまみれながら、中腰で収穫していった。
カカオの実は木の幹から突然ニョキっと生えている。写真ではよく見ていたけれど、実際に本物を見るとなんだかその姿が可愛くて不思議な気分に。
そんなカカオの実の収穫は、カットするのに力がいるし、中腰の姿勢をキープするのも中々辛くて大変な作業だった。
私は実家が農家で、大学でも農業を学んできて、小さいころからずっと農作業はしてきたけれど、作物が違うとやはりコツも違う。
けれど久しぶりに作物と触れ合っていて、自分がちょっとずつ昔の感覚を取り戻しているのを感じた。
私の白いTシャツや腕はいつのまにか小さな虫だらけ、草だらけ。帽子には蜘蛛の巣が引っかかっている。けれどそれすらなんだか懐かしい。

カゴいっぱいに収穫して、どんどん車の荷台に積んでいく。終わる頃にはヘトヘトになっていた。ふと時間を確認したら、収穫を始めてまだ1時間も経っていなかった。とはいえ陽が高くなるほ日差しはどどんどん強くなるので、朝の早い時間に収穫するのがやはり良さそうだ。皆それぞれにカカオの入った重いカゴをひっぱりながら戻ってきて、力持ちのスタッフが車の荷台に積んでいった。

今日の収穫が終わって、加工場に向かった。途中の景色は空が広くてとても清々しかった。ペッチャブーンは水田が多く、田舎者の自分にとってはとても懐かしい景色に感じた。

到着して、加工場のそばのお店でお昼を食べた。赤い汁の麺はちょっと辛め。一緒のテーブルの先生は今朝からちょっとお腹の調子が悪いらしく食べなかった。実は私もちょっとお腹の調子が怪しくて、二人して「昨日のアレかな…」と考えを巡らせていた。多分昨日農園で一緒に食べた桑の実だと思っている。


お別れの撮影会

昼になり、私と先生がバンコクに戻る時間になった。約24時間のペッチャブーン滞在。短いけれど、とても濃密な時間だった。この辺りは自然公園もあって、タイの田舎らしい気張らない魅力がたくさんありそうだ。もっと観光もしてみたかったが、翌日にはまたバンコクで別の仕事が待っている。
でもまた来るつもりなら、名残惜しいくらいがちょうどいいのかもしれない。

帰る準備をしていると子供が一人、自転車で事務所に乗り込んできた。
従業員の息子らしい。日本人(私)が珍しいから見にきた感じだった。記念にと、息子とツーショットの撮影を頼まれた。すると、他の従業員も次々と私とツーショットを撮りにきた。色んな人に色んなポーズを指定されて撮影をした。やっぱりここに来る日本人は珍しいんだろう。なんだか面白い状況だった。

最後には素敵もお土産をいただいた。
この農園で栽培したカカオニブだ。ロースト済みを少量パックしてお土産として持たせてくれた。実は帰国後にこのニブでチョコレートを試作してみたのだが、まさに「白葡萄」というべきフルーティで上品な味わいで、タイのカカオがこんな味わいを持っているなんてと衝撃を受けた。その後もタイの色々な産地のチョコレートを試してみたが、これほど衝撃を受ける味わいのカカオには未だに出会えていない。
帰国後しばらくして知人のいる日本のカカオ輸入商社に相談してみたのだが、ロットや価格などの条件云々で今はまだ難しいようだ。

しかも手作業で丁寧に選別してくれていた

一緒にバンコクへ

帰りはビーさんと子供たち二人が車でバンコク送ってくれた。せっかくだからバンコク観光しに行くのだという。まだ小学生と高校生の子供達はとても嬉しそうだった。
4時間の道中、子供達がスマホの翻訳アプリで何度も話しかけてくれた。
「ペッチャブーンは楽しかったですか」「また遊びに来てください」「タイ料理は好きですか」「私たちは日本で寿司を食べたい」
私は「もちろん」と答えた。

バンコク市内に入り、先に先生の自宅に到着した。この2日間、先生のサポートがなければ十分にコミュニケーションが取れなかったと思うし、何よりも先生のちょっとした気遣いや優しさに助けられた。先生も元教え子のビーさんと久しぶりに会えて嬉しかったそうだ。次にペッチャブーンを訪ねるときはもう少しタイ語を話せるようになりたいけれど、先生にもまた会いたいなと思う。

先生とお別れをしたあと、私がバンコクで滞在しているウォンウェンヤイ地区のホテルに送り届けてくれた。ビーさん親子はここから少し先の地区に泊まるらしい。「なんでこんなローカルエリアに泊まるの?」と不思議がられた。実はバンコクではタイのローカルな生活を感じるところに泊まりたくてしばらくこのエリアに滞在している。
有名な観光地も華やかで魅力的だけれど、ペッチャブーンもバンコクの下町も、自分で行かなければ見ることのできない「知らなかったタイ」がそこにたくさんある。
そういう魅力を知って、タイをもっと好きになって、自分自身がタイのカカオで作るチョコレートのストーリーをより味わい深いものにしていきたいのだ。

とても名残惜しかったけれど、ビーさんたちとホテルの前でお別れをした。そしてスコールが来る前に、溜まりに溜まった洗濯物をコインランドリーに投入しに行った。
すると突然ビーさんからLINEが入った。
「ペッチャブーンのお土産を渡し忘れたからホテルにこのバイク便が行きます」というメッセージと共に、バイク便の運転手が手にビニール袋を持った写真が送られてきた。
洗濯物をそのままにホテルに一旦引き返すと、ちょうど運転手が到着したところだった。
ビニール袋にはペッチャブーンの名産のタマリンドのお菓子がたっぷり入っていた。
最後の最後まで本当にお世話になって、心遣いを沢山いただいてしまった。
またいつか会えるはずなので、その時はちゃんと恩返しができる自分で会えたらいいなと思う。

いただいたタマリンドのお菓子たち

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございます。
ランパーンにペッチャブーン、全ての訪問が終わって振り返ると、とにかくお世話になりっぱなしの旅でした。
見学料をしっかり払うつもりで交渉して訪問したけれど、食事も宿もお世話になってしまい、結局この旅で自分は何もgiveすることが出来なかったと思います。
それと同時に、この経験をちゃんと恩返しできるようなメイカーになっていきたいなと思いました。一人きりでやっている小さなメイカーなので多分時間はかかるとは思いますが…

今(2024年8月)、書いているこの旅の思い出は既に2年前のものです。
けれどこの記録がお客さまにとってチョコレートやビーントゥバルをより楽しんでいただけるエッセンスになると良いな、という思いで公開してみました。
この旅にはまだ続きがあり、2024年1月、7月のタイ訪問に繋がっています。
近いうちに続きを記録として残していきたいと思うので、またご覧いただけると嬉しいです。

おしまい



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