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カカオをめぐる冒険② 2022年9月タイ・ランパーン県
緊張のファーストミーティング
9/10(土) 今日も朝からしとしと雨が降り、止む気配が無い。
朝10時にカカオ企業の方が迎えにきてくれるので、その前に朝食を済ませておく。ホテルの方がおすすめしてくれた中華麺とお粥のお店へ。
いよいよ異国で一人でカカオ企業を訪問するんだ、という緊張がどんどん高まり、気持ちをほぐすために朝から「ローストダックとワンタン入り中華麺」というがっつりメニューで気合いを入れる。
タイを訪れる前にあった「期待」は今全て「緊張」に置き変わっていて、何かエネルギーを摂取しないと逆に胃酸でやられてしまいそうな気がした。
ハーブと香辛料の香りで緊張していた身体がなんだかスッキリしてくる。
ホテルに戻り、待ち合わせ場所のロビーで心の準備。スタッフの女性が赤ちゃんをあやしながら話しかけてくれた。30代半ばくらいの女性だったので「あなたの子どもですか?」と聞くと、孫だと言われた。びっくりしたけど可愛くて気持ちが解れる。
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企業の方から「黒のミニバンで迎えにくる」と言われたので外を確認しながら待つものの、ランパーンは黒のミニバン率がかなり多く、何台も通り過ぎるたびに「来たか?来たか?」とヒヤヒヤ。しばらくしてチャット電話が鳴り、ホテルの前の通りに止まった黒い車の窓から二人の男女に手招きされる。日本にいる時からこの日のためにやりとりをしていたトンさんと、彼の奥さんだった。
軽く挨拶をして、いよいよ出発。車内ではお互いに拙い英語で、この旅のスケジュールや今回の洪水の大変さを話したりした。また道中で「ここはランパーンの有名なスポットだよ」「ここは大学だよ」と案内をしてくれたりもした。会話はうまく伝わらないことも多く、お互いに「あれ?(伝わらないな…)アハハ〜」みたいなやりとりも多々ありつつ、それでも二人ともにこやかで安心感があった。
ついに到着…!
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入り口はオープンエアなカフェになっているが、北タイからカカオが集まる加工所であり、農家のラーニングセンターでもある。2022年5月に興味本位で初めて仕入れたランパーン県産のカカオ豆。その特徴的な酸味と爽やかさをチョコレートにし、「ソンクラン」と名付け、小ロットで作り続けていた。そのサプライヤーが “Thai coffee & cocoa” であるということはインポーターの情報から知っていて、いつか行ってみたいと思っていた場所の一つでもあった。その「いつか」がまさか4ヶ月後の今実現するとは、その時は思っていなかったけれど。「ついに来てしまった…」という緊張感でいっぱいになっていると、奥から現れた女性に突然日本語で話しかけてくれて、更に驚いた。この企業のオーナーは日本の国籍を持ちタイ人として暮らす女性だった。
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オーナーのティムさんがカカオハスクティー(カカオ豆の殻を煮出したお茶。香ばしくて優しい味)と、ホットココアをふるまってくれた。
そして、「見たことあると思うけど、うちの豆だよ」とカカオ豆を見せてくれた。
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指導者のご夫婦も一緒に4人で英語・タイ語・日本語を交えてお互いの事業のことをたくさん話した。彼らは日本のチョコレート事情について、どんなお店があるのか、どんなものが流行っているのかが気になっていて、興味深く話を聞いてくれた。以前この場所に来たことのある日本人についても記念写真と一緒にたくさん教えてくれたが、チョコレート作りに携わっていたりチョコレート好きな人なら誰しも知っている有名なショコラティエやパティシエの方など錚々たる顔ぶれで恐縮してしまった。
それと同時に、自分がアテンドも付けずツアーも組まずに一人で訪問してしまったことがやはり申し訳ない気持ちになってしまい、その気持ちを正直に伝えたところ、「そんなことは全然気にしなくていいよ、見学料も要らないよ。せっかく来たんだからあとで一緒に北タイのご飯を食べに行こうよ」と言ってくれた。3人とも本当に親切で優しくてオープンマインドで、本当に感謝しかない。タイ語で感謝の気持ちをちゃんと伝えたいけど、「コープンマーカー(本当にありがとう)」しか言えない。私が2歳児レベルのタイ語でどうにかコミュニケーションを取ろうとすると、「そこはこうやって言うといいよ〜」と言い回しや発音を教えてくれたりした。
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この場所にはランパーンやチェンマイ各地からカカオ豆が集積されるのだが、今日は雨なので作業ができないとのこと。「明日のほうが色々見せられるから明日も来ないか?」と提案される。私一人のために2日間も時間を割いてもらうのが申し訳ないという思いと、明日はチェンライ県の農家を訪問するための移動日にしていたので少し悩んだが、はるばる来たのだから甘えさせてもらおう、ということで明日も訪問することに。
今日の企業訪問は顔合わせのような感じで終了し、この後4人で市内のランチに出発。
ランチタイム
立派なレストランに到着。
花が沢山あって派手だなと思ったら、このあと結婚式があるとのこと。タイらしい手の込んだ草花の飾りが繊細でとてもかわいい。
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豪華なおかずと共に2人前くらいの大盛りのパッタイを一人一皿ずつ。
すごく美味しかったけれど、この時はまだ緊張していて食事があまり喉を通らなかった。初対面の人とランチはやはり日本以上に緊張・・ありがたいことにご馳走していただいたのだけれど、半分くらい残してしまった。
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そうだ、タンブンしよう
タイの家やお店の前によくある小さな祠もカラフルで可愛い。中には小さな精霊(ピー)が住んでいるらしい。タイではこうした祠の前を通り過ぎる時に手を合わせている人をよく見かける。
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タイ人は信仰心が厚い人が多い。
タイに居ると「タンブン(徳を積む)」という言葉をよく聞くが、とても素敵な言葉だと思う。タンブンは簡単に言うと「誰かのために何かしてあげる」ことで、寄付をしたり親切をしたりすることで自分や家族が救われるという考え方だそう。私自身、昔は誰かに親切をすることに対して時に少し勇気がいることも多かったけれど、この考え方を知ってちょっとした親切は気負わずにやったらいいんだなと背中を押されたことがあった。
誰かを気にかけたり助けることに恥ずかしさや遠慮が無くなったというか、無意識に手を差し伸べられるようになってきた気がしている。(それが役に立たないことも、お節介になることもしばしあるが。)
実際にタイの人は本当に優しく声をかけてくれて、見ず知らずの私が道中で困っていると言葉が通じないのに助けようとしてくれたりする。タンブンの心が分け隔てない優しさにも繋がっているのだなと感じる。
皆んなでお寺を見にいく
昼食のあとは「Wat Pong Sanuk Nua(ワット ポンサヌックヌア)」というお寺に連れて行ってもらった。1334年建立の古い歴史があるお寺で、タイ・ビルマ・中国の仏教建築様式が組み合わされているとのこと。確かに色合いも様式もそれぞれに違う建物が中にいくつもあった。
まだランパーンに来て2日目だが、建物や食事など、隣国の中国やビルマ(ミャンマー)の影響がそこかしこに混在しているのは北部ならではの風景だと思う。
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境内を歩いていると鳥のさえずりやお経が聞こえてくる。時間がゆるやかに流れてきてとても心地良い。
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バナナの葉の飾りがたくさん重ねられている。多分ここを訪れた人がのせたもの。お願いごとの数だけ重ねられているのだろうか。見学していたら段々と雨が止んできた。
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何を話すでもなく、4人でまったりと一通り歩き回った。昼食をたっぷり食べたので皆眠そうだった。私もしっかり眠くて、境内に穏やかに横たわる涅槃像に感情移入しかけた。帰りは両替所に行きたいとお願いし、ホテルの近くの両替所まで送ってもらい、この日は解散となった。
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さっきのお寺とは対照的に、両替所は商売繁盛の神様が大集合。大小合わせて何体いるのだろうか。特に神頼みをしていない私が両替したタイバーツは、円安の影響で大した額にはなっていない。ホテルに戻り、さっきまでの出来事をなんとなく振り返る。緊張感から解放されてどっと疲れが出てきたので少し仮眠を取ろうと思いベットに横になった。
しかしこの数時間の初めてだらけの記憶でなんだか興奮してしまい、お寺であんなに眠かったのに全く眠れなかった。
そうこうしているうちに部屋の中が薄暗くなってきた。今日は土曜日。週末はナイトマーケットが開いていると聞いたので、屋台で夕ご飯を調達するために出かけることにした。
Kong Ta (ゴーンター)ナイトマーケット
ランパーンで一番大きな、土日開催のナイトマーケット。街の中心を流れるワン川の近くで開催していて、出店数も多くかなり大規模。外国人は全く見かけず、タイ人観光客で賑わっていた。
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小さな通りには地元作家によるクラフトマーケット的位置付けのスペースもあり、こだわりの詰まったハンドメイドの雑貨や食品がたくさん売られていた。タイの地方にもこういう場所があるのは、同じ作家としてとても嬉しい気持ちになる。
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色とりどりのタイのお菓子や謎のおかずもたくさん。道のあちこちから色んな匂いがしてくる。夜ごはんは笹の船みたいなものに乗ったオムレツと、ココナッツのお菓子にした。ホテルに戻ってビールを飲みながら食べたので、夜はちゃんと眠くなってしっかり眠ることができた。
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翌日もThai coffee & cocoaへ。