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カカオをめぐる冒険⑤ 2022年9月タイ・ペッチャブーン県
カカオの加工場へ
大所帯での食事が終わりそれぞれの車に乗り込んで、ビーさんの経営するカカオの加工場へ向かった。雨がだんだん強くなってきた。
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ついに到着。
作業中の加工場にはビニールシートが敷かれ、床いっぱいの大きなカカオポッドが転がっていた。カカオポッドはカカオの実のことで、中にカカオ豆がたくさん詰まっている。
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この日はカカオポッドを割って、中身を取り出していた。この中身が発酵⇨乾燥の工程を経てチョコレートの原料としてのカカオ豆になる。私も実際に一緒に作業を体験させていただいた。いい豆と悪い豆を見分けて、良いものだけをポリバケツに入れていった。ベテランっぽい従業員の方がタイ語で丁寧に教えてくれた。カカオポッドを割るのも大変だが、中身を選別するのも繊細な作業でまた別の大変さがある。
実は会社員時代に工場勤務していた時、同じようにフルーツの選別をしたことがある。同じ姿勢でひたすらカットして選別していくのは、単純作業のようでとても大変なのだ。長時間やるならなおさらのこと。日本での工場勤務の時は死語厳禁、寒い冷蔵庫内で震えながら作業していたので肉体的にも精神的にもとてもキツかった。
ここでは皆適度に休憩したりおしゃべりしながら楽しく作業していた。
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怪しい茶色い液体
加工場の脇にふと目をやると、茶色い液体の入った鍋が炭火の上に置かれている。火は消えているがどうやらまだ温かいようだ。
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これは何ですか?と聞いたら、ビーさんがニヤッと笑ってワインボトルのようなものを持ってきた。
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カカオを醸造したカカオワインだった!
販売用ではなく友人知人に分けるためのものらしい。さっきの茶色い泥のような液体を見てしまうと「これ飲めるのか」と正直及び腰にならざるを得ないが、朝から緊張が続いて感覚が麻痺してきたのか、気持ちとは裏腹に興味本位が優って躊躇いもなく「Yes!」と答えている自分がいた。
濾過されて冷やされたカカオワインは白ワインのような色で少しとろりとしている。飲んだ瞬間、貴腐ワインのような甘さとみずみずしさが口の中に広がり脳にまで届いた。初めて飲んだカカオワイン(無許可製造)はとても美味しく、3杯くらいおかわりをした。
皆が笑って喜んでいるのが見えた。そして周りの人まで同じグラスで回し飲みし始めた。お陰でようやくリラックスすることができた。
農園へ行く
カカオワインを酌み交わしたところで、みんなで農園を見に行くことになった。2台の車に分かれて乗ったところで、スコールが降ってきた。
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農園に到着するも、辺りは歩けないほど増水している。
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小屋で雨宿りしながら、誰かがその辺で摘んできた桑の実を食べた。ある従業員はバケツで沼地にいるタニシを獲っていた。後日みんなのランチになるらしい。雨の日でも何かしらの収穫はあるようだ。
スコールは中々止まず、農園を見てまわるのは難しそうだったので、結局小屋でおしゃべりして帰った。
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小さな実験室
農園からびしょ濡れで戻った後は設備を案内してもらった。
といっても始めてまだ3年ほどでそれほど広い加工場ではなく、従業員は定時で6名ほどだという。でもだからこそ、色々なトライをしているようだった。
事務所の奥にはチョコレートを作る小さなマシンが並んでいた。タイの牛乳で作ったホットチョコレートをいただく。濃厚で美味しい。私が日本から持ってきたお土産を突きつつ、おしゃべりしながら皆で飲んだ。
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カカオ豆を発酵させる様子を見せていただく
我々がこの小さな実験室を見学している間に、加工場ではカカオポッドから豆を取り出す作業が終わり、木箱で発酵する作業に移っていた。
小さな女性の背丈位はあるバナナの葉の汚れを丁寧に落とし、木箱を覆っていく。そしてその中にカカオ豆をたっぷり敷き詰めていく。途中でカカオの葉もひらひらと入れて。
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ランパーンでは見れなかった加工の工程をやっと見ることができた。バナナの葉をカットして木箱を覆い、カカオ豆を敷き詰めていく。手慣れた様子で丁寧に工程を進めていく姿がとても美しく見えた。
そして発酵の準備が終わる頃、その脇で大きな竹かごをの上でカカオを篩う女性が。かごの横から扇風機で風を当てて、チョコレートにするためのカカオ豆をニブ(チョコレートにする部分)と皮に選別をしていた。
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加工場で実験的に作っているチョコレートは量も少ないので、こうしてふるいながらカカオ豆と皮を選別しているのだそう。
「これはコツがいるよ。うまくやらないと落とすよ!」「彼女はこの作業のスペシャリストだよ!」とドヤ顔した直後に床にぶちまけてキャーキャー言っていて楽しそうだった。日本だったら真面目にやれって怒られていると思う。いい職場だな…
そんなこんなでワイワイしながら見学させてもらい、気がついたら日が落ちていた。そろそろ今日の仕事はおしまい、となり従業員たちは帰っていった。
ペッチャブーンの夜
その後ビーさん一家や通訳の先生、チャナさんたちも含めて7名で地元のレストランに連れて行ってもらった。
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途中でバンド演奏が始まった。演奏を聞きながら辛くて美味しい料理をたくさん食べた。
演奏は最後のほうになるにつれ、だんだんとしんみりした曲調になっていった。演奏を聴きながら、今日一日の緊張と楽しさと疲れが相まって、少し泣きそうになってしまった。
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夜ご飯を終えてビーさんが用意してくれた宿に送り届けてくれた。
ご飯をご馳走になったうえに宿まで用意してくれていたことに感謝しかなかった。こんなに甘えてしまっていいのだろうか。街の外れにある寝るためだけの場所という感じでアメニティーは何も無いけれど、朝から動き回ってどっぷり疲れていたので関係なかった。
ちなみに通訳の先生と一緒にツインの部屋に泊まった。異国の地で初対面の人といきなり同じホテルに泊まるのも中々無い経験だと思う。
先生がタイのベビーパウダーや化粧品を貸してくれた。タイらしい、むわーんとした甘い香りのパウダーを二人で顔にはたいて、真っ白な顔で眠りについた。
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つづく