チェーン抽象化の未来について考える。そしてブロックチェーンゲームの苦境の原因とその打開策とは
今回は、チェーン抽象化に関する記事、そして上場企業のブロックチェーンゲームに関する情報開示からその方向性について考察していきたいと思う。
1.チェーン抽象化の未来
マルチチェーンエコロジーの未来: チェーン抽象化のパノラマ分析
なぜチェーン抽象化が話題になるのか。それは、やはり様々な独立したチェーンが乱立している状況において、実際に使う側の視点から考えると不便であり、解決すべき課題として映るからだ。
それぞれのL1やL2のエコシステムはそれぞれ自身のことを「世界で一番性能のよいプロジェクトであり、将来的には自分たちがスタンダード(標準)になるはずだ」との思いでプロジェクトを推進しているということもあるだろう。
しかし、その思いとは裏腹に、あらゆるチェーンが自身こそは標準だと主張することによって反対に標準化が進まないという状況にある。
そうなると、取ることのできる手段は、そのチェーン同士をシームレスに接続し、あたかも一つのチェーンのようにふるまうことができるようにすることだ。この本来は複数チェーンが存在する中で、ユーザーから見ると一つの大きなチェーンのように見えるような状況を「抽象化」と表現している。
抽象的というのは、例えば個別の犬種(ダックスフンドとかチワワとか柴犬など)が各チェーンだとすると「犬」という大きな枠でそのすべてを捉えるようなものだ。世の中に「犬」というものは存在しないのだが、具体的な犬種を総合すると、それは全体としては犬というカテゴリになる。
上記の記事では、そのチェーン抽象化に取り組むプロジェクトを俯瞰的にカテゴリ毎に整理して報じている。この領域にも様々なプロジェクトが存在し、領域内で鎬を削っている状況が良く分かるだろう。
しかし、抽象化に取り組むプロジェクトが、「私のプロジェクトこそ抽象化の本命だ」というような思想でプロジェクトを進め始めると結局抽象化の方法論が乱立して、元の木阿弥となってしまう。
私はこうなる原因にトークンがあるのではないかと感じている。つまり、本来オープンソースというのは貢献で成り立っており、経済的なインセンティブが無かった。それに対してブロックチェーンのプロトコルはトークンによって価値を捉えることができる。それが素晴らしいのだという言説もあった。しかしながら、実際には、各プロジェクト毎に投資家がおり、その投資家はそのプロジェクトの成功に賭けているのだから、そのプロジェクトが成功してもらわなければ困るのだ。
例えば仮に、Ethereumが標準になるとして、SolanaやAvalancheがはいそうですか、では私たちは全部統合しますとなるだろうか。もはや投資家が背景にある各プロジェクトは自身のプロジェクトを成功させる以外の道が無いのだ。
インターネットが早い段階で規格を統一させて、全世界が共通の基盤の上に動けるようになったのは、プロトコルそのものが儲からないからであり、儲からない×重要という掛け合わせが標準化を進めるのではという仮説も考えられるのではないかと思う。だれもやりたがらないからこそ素晴らしい規格ができれば皆挙って「それを使いましょう」となるはずだから。
だからこそ、この標準化が進みにくいブロックチェーンの業界の中で、ユーザー側の視点に立って抽象化を進めていくのは極めて険しい道のりであり、理想としては、ブロックチェーンで利益を得ている人達が寄付のような形で標準化を推進するような仕組みを作っていくことが必要なのかもしれないと感じている。
あとは、デファクトとして、圧倒的な存在感を得ていくという方法だ。
OPスーパーチェーンの開発状況と主要データ分析
Optimismを基盤とするL2チェーン群が存在感を増しており、特にBASEの成功によって、OP Stackを活用したL2への注目度はより高くなってきている。チェーン抽象化のもう一つの流れとしては、このOptimismのSuperchain構想のように、デファクトとして主流を取りにいくという流れであり、これも過去様々な業界で起こってきたことでもある。
ユーザーが便利であることというのは最終的には色々他のようそにも優先していくため、一旦デファクトとしてユーザーから支持を得られてしまえば、新たな参入組は、そのデファクト上で勝負した方が勝算が高くなっていくからだ。
その意味でも、OPのエコシステムがデファクトとなるのか、それともやはり、このSuperchainもOne of themになってしまうのか。ここも注目だ。
2.ブロックチェーンゲームが踊り場に。各社が決断を迫られる
コロプラ、通期業績は損失12億円と赤字転落 NFTやWeb3ゲームの先行投資で利益圧迫、経営陣の報酬減額(オタク総研)
クルーズ、5億3400万円の債権が回収不能の恐れ、貸倒引当金計上…CROOZ Blockchain Labの協業先がゲーム運営低調で資金繰り悪化
ブロックチェーンゲームに取り組む各社から、苦境を伝えるニュースが開示された。上場企業だからこそ、情報開示の義務によって明るみになっていると言えるが、非上場の大手ゲーム会社でも同じような状況のところは複数あるのではないだろうか。
収益化の遅れにはいくつかの原因がある
1.市場が小さい
2.トークンの価格形成が難しい
3.持続可能なゲーム運営が難しい
4.ゲームそのものに課金してもらう層を取り込めていない
といったところが考えられるだろう。もちろん、将来的にスケールする市場と見込んで投資しているという状況はあるが、直近数年間でWeb3ゲームの市場は大きくは広がっていないし、そのスケールする道筋も明確には見えていないという状況ではないだろうか。
私は、一旦ここで、ブロックチェーンゲームというものを再定義する必要があるのではないかと考えている。最近のブロックチェーンゲームでの成功例として盛んに宣伝されている「オフ・ザ・グリッド」というゲームがある。
Epic GameのストアでNo1を取ったことが注目を集めているが、実際にはNFTや暗号資産という要素は現時点では使われておらず、一般的なゲームとして勝負しているという状況だ。
ブロックチェーンゲームも面白くなければならないと、ゲームそのもののクオリティを上げていくということを様々なブロックチェーンゲーム関連のプロジェクトが行ってきたが、俯瞰してみてみれば、それは「ゲーム」を作っているのであって、ブロックチェーンがあるから面白い、ブロックチェーンの要素が新しいジャンルを作っているということではないことの証明に逆になってしまっている。
面白いゲームを作って、既存のプラットフォームに乗せて、既存のゲームユーザーに満足してもらう。それはまさにゲーム産業が行っていることそのものであり、新しいパラダイムシフトを起こしているようには見えなくなってしまっている。
ブロックチェーンゲームは新たなジャンルではなかった。ただの便利な機能追加にしかすぎなかった。そう結論付けられても仕方のない状況だ。
だからこそ、今取り組んでいるゲーム会社さんは、ブロックチェーンを活用することで今までにできなかった面白い遊びを作っていってほしいし、新しいジャンルとして確立していく未来はなくなったわけではないことを証明してほしい。
一方で、ブロックチェーン(暗号資産やNFT)を使って、既存のゲームをより便利にしていくという方向性もそれはそれで重要な進化だと思う。例えばβ版のプレーを行うためのインセンティブを暗号資産で行うような新しいPlay to Earnコミュニティの形成や、それを活用した既存ゲームタイトルのグロース策などは今までは難しかったユーザー参加型のゲーム会社経営の一つになるかもしれない。
トークン発行すれば儲かるみたいな気持ちでブロックチェーンゲームに参入するのは間違いであり、あくまで今までにないジャンル、新しい面白さを提案する。そしてゲーム開発の成功率を上げる、そんな新しいエコシステムを作っていくことが重要なのではないだろうか。
3.まとめ
今回はチェーン抽象化の未来と、ブロックチェーンゲームの未来についてそれぞれの課題や期待について書いてきたが、前提としてそれぞれに未来があるし、その未来を信じて突き進んでいる起業家の方々と一緒に私たちも努力をしていきたい思いだ。
ただ、新しいパラダイムを作るには現状を正確に認識する必要もある。今何が問題かを知り、そして何を必要とされているのかをもう一度考え直す踊り場に来ていることは間違いないし、その意味でもブロックチェーンの根幹をもう一度見直して、その核心を突いたプロジェクトを作っていく必要があることを再認識した1週間であった。
その他のニュースも動画で取り上げているのでこちらもぜひご覧ください。