DIEエット~痩せる薬は存在するか~③後編

さて、前回の終わりでエフェドリンの欠点について説明したはず。

エフェドリンは脂肪燃焼アップに働くノルアドレナリンβ受容体だけでなく、脂肪燃焼ダウンに働くノルアドレナリンα受容体も刺激してしまうため、脂肪燃焼の効率がいささか悪くなってしまう、というお話。
じゃあα受容体には働かず、β受容体にだけ働く薬があれば、より脂肪燃焼効果は上がるはずじゃん?
科学の力は偉大で、すでに市販薬(輸入だけど)の範囲でβ受容体にだけ働く薬は開発されている。
効くところによると、この薬はECAスタックの比では無いらしく、「ダイエットしているのに筋肉が落ちないどころか増える」というトンデモ効果を発揮するものなのだとか。

という訳で、今回はノルアドレナリンβ、その中でもβ2受容体に働くお薬をピックアップしてみました!

②クレンブテロール

筋トレ界隈の人なら、もしかすると聞いた事があるかもしれない。
クレンブテロールは、気管支拡張剤として売られている海外の市販薬だ。
これはノルアドレナリンβ受容体の中でも、β2という種類の受容体に作用するお薬で、他の受容体にはそこまで作用しないと言われている。

β2受容体の元の作用は筋肉の弛緩で、本来は気管支を弛緩させて喘息を和らげるお薬なんだけど、そのついでに筋肉のエネルギー消費と筋肉の肥大をものっすごーくアップさせてしまう。
その為、これを使用すると副作用として筋肉が付きまくって脂肪が燃えまくって、「脂肪が落ちて筋肉が増える」状態になる。
あまりにもアスリート大喜びな薬で、またその効果が尋常じゃない為に、この薬も筋肉増強剤としてオリンピック禁止薬物に指定されている。
ある意味公式お墨付き(?)な、効果テキメンのブツなのです。

という訳で、第2ラウンドはよりヤバいこの薬を使っていこうと思います。
クレンブテロールは1回飲むと36時間効果が続くので、1日1回1~2錠を飲むだけ。
他の飲み合わせはナシ。飲み合わせ間違えて死にたくはないしね。

ちなみに副作用は動悸、手の震えがかなりの割合で起こるとの事。
また肝臓にもあまりよろしくない上に、場合により不整脈を起こす可能性もあるので注意。
心疾患のある方はやらない方が良い。というか健康でもやらない方が良いと思う。
では早速やってみよう。

14~21日目 クレンブテロール

ECAスタックとは比にならない程動悸がするんだけど大丈夫なのコレ??
いやもう普通に動悸だわ。明らかに心臓になんかキてるしこの状態で運動したら絶対死ぬ。
しかも階段の昇降程度で明らかに脚に違和感が……なんか脚つりそうなんだけど!?
確かにこの薬が筋肉に作用してるのが凄く良く分かる!感心している場合じゃないけど!

……しかも、微かだけどハッキリ手が震えるし、明らかにヤク中のそれじゃん。こっわ。
これ本当に大丈夫なの?(2度目)
手作業が多い仕事上、明らかに生活の質が落ちていると言わざるを得ないし、市販薬の副作用の域を超えている様な気がする。
たかが痩せる為だけに払うコストかこれは?この状態を続けるんなら、普通に朝晩軽く運動した方がずっと楽なのでは?

まぁでも、過剰摂取とかしない限り死ななさそうだし様子見って事で。
ちなみにこの薬も耐性が早く付くので、1週間かけてじわじわと摂取量を増やしながら効果を見てみよう。

(結局、心臓の違和感は午前中、つりそうな脚と手の震えは夕方まで続いた。普通に怖い。)


18日目 ダイビング翌日


痛え!!!!
身体中が!!!!
筋肉痛で!!!!!!

なんだこれ!?ちょっとその辺の海でダイビングしたら、意味不明な程全身筋肉痛なんですけど!?
座ってキーボードを打つ肩が常に痛い、背中回りが痛い、ついでに深呼吸どころかあくびをするだけで肺が痛え!!!
これ本当に大丈夫なの!?(3度目)

明らかに筋肉痛の痛みだと分かっているからまだ安心っちゃ安心だけど、もうびっくりする程の大惨事。
人生でこんなに筋肉痛になった事なんてあったか??なかった気がする。

クレンブテロールは確かに筋肥大、筋肉へのエネルギー供給アップ効果を持つのは知っていたけど、まさか「運動の強度を底上げする効果」があるとは思っていなかった。
たった2ダイブで全身激しく筋肉痛とか初めてだわこんなの。

……だとしたら、だよ?
これ飲んで、一日中筋トレしてたらもう大変なムキムキマッチョマンが出来上がらない?恐らく、いやきっと出来るはず。
確かにこれはアスリートにおあつらえな薬だな。そりゃあオリンピックにも禁止されるわけだ。

しかしそれにしても、筋肉痛って逃げようが無いから逆にしんどい。
動くと痛いし、動かなければ生活ができないし、これなんて拷問??
というかこんな惨事になりながら、それでも食事・運動習慣を変えないって意味が分からなくなってきた。
これ飲んで普通に運動するだけで痩せるんじゃないの?
なんでこんな意味不明な事をやっているんだっけ?もしかして私はバカなのか?

以下またしても仕組みの説明。興味なければ読み飛ばし推奨。
じゃあどうやって肥大させているかというと、理由の一つとしてβ2とインスリンの作用が関わっている。
インスリンって言うと、糖尿病の人に注射するアレ。あのインスリンが働くと、血液中の糖分が体のいろんな細胞に取り込まれて、エネルギーとして使われる。
よく「糖尿病の人はむしろ痩せている」というけれど、あれはインスリンを出す量か、もしくはインスリンを受け取る「インスリン受容体」の機能が弱まっているせいで、血液中の糖分が細胞に取り込めなくなってしまって、細胞としてはむしろエネルギー不足になって痩せる、というのも理由の一つとしてある。他の理由もあるけど。
http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html
で、筋肉の細胞にもこのインスリンをキャッチする「インスリン受容体」というのが備わっている。
筋肉細胞のインスリン受容体がインスリンをキャッチすると、血液中から糖分を取り込んでエネルギー源にすると共に、タンパク質の合成を活性化させたり、アミノ酸をため込んだりして筋肉を増やそうと働く。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/137/2/137_2_65/_pdf

じゃあそこにβ2受容体がどう関わっているかという話。
筋肉細胞の表面にあるβ2受容体が反応すると、インスリン受容体をインスリンに敏感な状態にさせる。
筋肉細胞のβ2受容体が反応していると、筋肉細胞のインスリン受容体に対して「ちょっとでもインスリンにくっついたら即反応な!」と指示を送って、結果インスリン受容体がバカバカ反応して、糖をバリバリエネルギーに変えると共にタンパク質をドカドカ作り出して結果ムキムキになるという。
ちなみに、家畜の餌にクレンブテロールを混ぜると簡単に赤身肉を作る事が出来る。赤身肉って要は筋肉だからね。
これを利用して、つい数年前まで中国やメキシコなんかでは、牛や豚に「痩肉精」としてクレンブテロールを与えていて、その結果肉を食べた人にクレンブテロールの中毒症状が出たり、またオリンピック選手がこれを食べてしまって、薬物反応が検出されて出場停止になって大問題になった事もあった。

さて、散々苦しんだところで後半は終わり。
この地獄の悶絶の結果、体重はどう変化したか?
次回は結果発表!


……筋肉がいてえ……。

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