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夢商売

ショートショート書いてみた③

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22世紀初頭、アメリカ合衆国は政治的な分断が極端に進んだせいで、十数の国に分裂し、軍事力も経済力も弱体化した。海外にあった軍事拠点から撤退も相次ぎ、沖縄や横須賀、横田など国内のすべての米軍基地は日本に返還された。

日本は超高齢社会などによる21世紀前半のどん底の至るような停滞を乗り越え、安定的な経済成長を続けていた。

日本は衰退するアメリカを尻目に繁栄を続け、前々世紀の大戦で手痛い敗戦を帰したのはアメリカ人がつくったフェイクだと考える人たちが急増した。
日本がアメリカに負けるはずがない。原爆投下も月面着陸もフェイクだ。日本国憲法は、世界で最も平和と民主主義を希求した日本人が独自に作ったもの。私たち日本人は偉大であり、かつ世界で最も謙虚な民族である。声の響きと通りだけがよい若手政治家がそんなことを演説し、わたしを含めたほとんどの日本人がその言葉に酔いしれた。

──という夢を見た。

実際は戦後170年経った22世紀初頭も、相変わらず政治家たちはアメリカの顔色をうかがい、増税して軍事費を過去最大にし、沖縄では昨日もまた女子高生が米兵に暴行されていた。地位協定は何も変わらないままである。
先月、GooppleXが新しいサービスをローンチした。就寝中に、ユーザーがみたい夢をみられるサービス。行動履歴や脳波から集めた思考履歴をもとにAIがその人にとって最もよい気分の精神状態で目が覚めるような夢を創作してみさせてくる。ただし課金しないと夢のなか一瞬広告が入ってくる。

1週間このサービスを試しているが、最初にみた夢が冒頭に語った基地がなくなる夢だった。基地がなくなるのはいいけど、フェイクとか出てくる話の展開がなあ……みたい夢が政治的な夢とは夢のない話だといささか自分に辟易した。

その日以降はそうした政治的な夢はみなくなった。3日前はお気に入りのAV女優を地下鉄で見かけるという夢。一昨日は妻と銀山温泉へ行く夢、その前日は脳波で運転する新車でドライブに行く夢をみた。あまりにリアルだったので、動画も買ったし、旅行も予約し、クルマの買い換えも検討した。

もう夢で、空を飛ばなくなった。死んだ人に会わなくなった。叶えられないような非現実な夢はみなくなった。目尻のシワを消す夢とか、薄くなった頭頂の毛髪が生えてくる夢とか……、最近急速に国内に増えた移民へのヘイトの夢がたまに混じる。
わたしの夢、どこいった?

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