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親父のスペシャリテ

身欠きニシンの炊合せ

日に日に寒さが増してくる今日この頃。

初雪を迎えいよいよ冬本番といった季節になってきましたね。

「来年のことを言うと鬼が笑う」といいますが早くも来年の春が待ち遠しい師走。

今回はそんな遠い春の訪れを告げる「春告魚」などとも呼ばれているニシンのお話。

ニシンの旬

ニシンの旬といえば春から初夏にかけて。
ニシンは冷たい海域に棲むニシン科の回遊魚。北の魚ですね。
栄養もDHAやEPAがズバ抜けているそうです。              見た目はイワシと良く似ていますが、イワシもニシン目ニシン科の魚。 
つまり親戚みたいなものでしょうか。
そもそも「ニシン」の名の由来は、身欠きニシンを作る際、身を二つに割ることから、身が二つという意味で「二身(にしん)」となったと言われています。
へぇ〜、そっちが最初なんだ(笑)って思いません?

身欠きニシンには種類がある?

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが身欠きニシンにはざっくりと分けて3つの種類あります。

本乾…カラカラになるまで乾燥させたもの。米の研ぎ汁に場合によっては
    3〜4日浸けて戻してから使う。

八分…1週間ほど干したもの。3時間から一晩で戻る。

ソフト…一夜干し。そのまま焼いて大根おろ しと醤油でも食べられる。

身欠きニシンは手間がかかる

さて、その炊き方ですが、
①一晩浸けたニシンは腹骨を取った後霜ふりをしてうろこをとります。

②それを切りつけして米ぬかと一緒に水から炊いていき、柔らかくなったらぬかを洗い流します。(本乾の場合)

③今度は出汁で炊きますが最初から調味料は入れずにしんがふっくらしてから砂糖、しょうゆ、みりんを入れ始めます。(うちではさらに後半たまり醤油と水飴でコクと甘みを足していきます)

④煮汁が1割ほど煮詰まったら一旦火を止め
半日ほどゆっくり味が染み込むまで置いておきます。

※ここでもまだ完成ではありません。

⑤今度は使う際にその都度取り出してからさらに煮汁を煮詰めにしん絡めるようにして照りを出していきます。

するとふっくらで艶々としたにしんの炊合せが出来上がりです。

さて、文字にするとさほど難しい工程もなく一見すると簡単そうなのですがとにかく時間と手間がかかります。

まず、すぐには使えない
そしてうろこが多い
一旦冷ましてから仕上げる                      崩れやすい…etc

当たり前ですがそのどの工程も省くことはできず、また手を抜くことももちろんできません。

うちの親父は日頃から本当に短気でせっかちなの人間なのですが、この作業だけは最初から最後までいつもひとりで黙々とやっています。

味付けも僕もだいたいこんな感じというのはわかるのですがやはり親父の作るものにはかないません。

毎回鍋に残った煮汁を舐めてみては「今日はちょっと詰めすぎ?」とか「今日はぴったり?」と自分の感覚と親父の感覚を照らし合わせています。

普段の料理は基本的には品良くすっきりとお酒に合うよう心がけています。
よく言われる「あともう少し足したいと思うくらい」のライン。

それが親父の場合はちょっと甘めなんですよね。
どちらかというとお惣菜寄りの味付け。
おふくろの味に近いかもしれませんね。
それがまた絶妙なんです。

特にこの「身欠きニシン」が美味い。

これは経験はもちろんですが、何より親父自身がニシンの炊合せが好きだからなんだと思います。

きっと昔誰かに褒められたとか、試行錯誤を繰り返した末に自分の得意料理になっていったとか。
そんな思い入れも詰まってるからこそ出せる味なんでしょうね。

いつか僕も自分の歩んできた板前人生を映し出すようなそんなニシンの味が出せるよう、また鍋の煮汁を舐めながら今日も親父と心の会話をするのでした。

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高橋 優介@越後妻有の料理人タカハシ
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