魔法のゴミ箱
日曜日、大学街ダラムの店は閉まっているが、橋の上や橋につながる広場には、未来のポップスターやエンターテイナーがあちこちでパフォーマンスを繰り広げている。
広場で人を待っていたら、ブルーのローラー付きゴミ箱がゆっくりこちらに転がってきた。
坂なので転がるのを止めなきゃ!と思ったら、おや、私の前でぴたっと止まった。
と、ゴミ箱が突如、方向を変えて走り出した。
私のまわりでも気づいた大人たちが、何が起こっているの?と言う顔で見ている。
さらに少し離れたところで、もう一つの黄色いゴミ箱が転がり始める。
目を輝かせた子供たちが、どこからともなくゴミ箱のまわりに集まって来る。
2つのゴミ箱は方角を変えながら、あっちに転がりこっちへ転がりする。
子供たちは向かってくるゴミ箱にはじめは後ずさりしていた。
ゴミ箱からぶーと警笛が鳴って、水鉄砲のような水が噴き出した。
みんな笑って、さぁそれからは、キャッキャ言いながらゴミ箱を追いかけ始める。
子供たちが追いかける広場の端で、ゴミ箱が急にピタリ止まる。
すると子供たちはゴミ箱を叩いたり、Hello!と話しかけ始める。
待ち人が来たので広場を立ち去り、夕方の駅で帰りの電車を待っていた。
「アッあのゴミ箱じゃないか!」
見ると反対のプラットホームに、ブルーと黄色のゴミ箱を2人の青年が押していた。
まわりに誰もいないので、大声で聞いた。
「さっき、中にいた?」
「そうだよ」
「どうやってゴミ箱を動かせたの?」
「魔法さ!」
そんな答えが返ってきた。
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