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Photo by
maikosan0429
トラネキサム酸笑顔 #毎週ショートショートnote
「クソッ、中田さんすんません、血ぃ止めてください」
ボクシングフェザー級世界タイトル戦。
リング上では激しい打ち合いが繰り広げられ、挑戦者のペコポン藤森は瞼を切り流血した。
「ああ、任せとけ。俺の腕とトラネキサム酸を信じろ」
カットマンの中田が言った。
「虎猫サムさん…ですか」
藤森の意識は朦朧としているようだ。
「…お前は試合に集中しろ」
血は止まった。
一進一退の攻防の中、藤森のアッパーがカウンター気味に入り一気呵成に畳み掛けると、チャンピオンがダウン。試合終了のゴングが鳴った。
試合後のリング上、藤森は勝利者インタビューを受けていた。
「壮絶な打ち合いになりました。勝因は」
「はい、途中瞼を切ったのがヤバかったんですが、中田さんと虎猫サムさんのおかげで助かりました」
「虎猫サムさん…ですか」
「はい」
自信満々で言われたため、インタビュアーはそれ以上ツッコミはしなかった。
トラネキサム酸笑顔の藤森の横で、中田は苦笑いを浮かべていた。