誘惑銀杏 #毎週ショートショートnote
ある日のこと、ぶらぶら散歩していると、植え込みの辺りに銀杏が一粒落ちていた。
皮は剥けており、艶やかで、ぴかぴか光沢がある。
銀杏の木もないのに、何故ここに銀杏が落ちているのかと考える内、気になって仕方がなくなってきた。
拾って帰ろうと思い近寄ると、つるんとした銀杏の実から手足が伸びて、とことこ道路の方へ歩き出す。
「あぁ君、道路に出たら危ないよ」と声をかけると、こちらを向いてぺこりとお辞儀をし、「道に迷ってしまって」と言うので、「何処の生まれだい」聞けば護国寺だと言う。
「護国寺はここから三駅も先だ。しかし君、もう殻もないじゃないか」
私がそう言うと、銀杏は手足を体にしまい、シュッと全身を殻に身を包んだ。
そのまま道路をコロコロと転がり始めたものだから、危ないったらないなと思い追いかけた。
そして辿り着いたは護国寺だ。
本堂に着くと住職に叱られ、銀杏はまたぺこりと頭を下げた。
私は住職に礼を言われ、茶碗蒸しを馳走になり、またぶらぶらと帰路についた。