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変身 #シロクマ文芸部「布団から」
https://note.com/komaki_kousuke/n/ncb35e1fcdb8b?sub_rt=share_pw
布団から出るのがどうにも億劫で、おずおずと過ごしている内に三年の月日が過ぎていた。
気づけば我が身とベッドが一体化して、立ち上がることもままならない。
しかしこのままではまた何年も流れてしまうとしばし煩悶し、とりあえず立つことから始めようと決意を固めた。
「仰向けにされた亀はこんな感じなのだろうなぁ」と天井を見ながら独り言を言う。
重心が背中にあるものだから、スックと立ち上がることもなかなかに難儀である。
ならばと思い、横反転を試みると、上手いこと四つん這いの体勢になれた。
「イケるっ」
勢いに任せて立ち上がってみたが、いかんせん三年寝太郎の体である。筋力が足りず、背中からバタンと倒れ、また元の通りに戻された。
いやはや参ったと天を仰ぐ。ずっと仰向けだから、改めて仰いだとてなんら新鮮味はない。
一人暮らしの天井には定番の、貼りっぱなしのアイドルグループのポスター。推しの女の子を見ている内、少しずつやる気が出てきた。
さっきので要領はつかんだので、まずは横に反転し、四つん這いになる。大事なのはここからだぞと自分に言い聞かせ、前傾姿勢を意識しながらゆっくり慎重に立ち上がる。
そうしてなんとか二本の足で立つことに成功した。バランスは取りにくいが、その内慣れることだろう。
さてまず何をしようかと思案にふけ、ふと時計を見ると既に9時を回っていた。慌てて勤務先に遅刻の連絡をすると部長が出て、「そのまま一生休んでなさい」との言葉。優しさに甘えて今日はお休みを頂くことにした。
とりあえず腹が減ったし喉も渇いた。食事でも作ろうかと冷蔵庫を開けてみるも、全部消費期限が切れていた。
ガッカリだが、悲嘆にくれていてもしょうがないと切り替えて買い物に行こうかと思ったが、背に貼りついたベッドのせいで服を着替えることもできない。洗面所の鏡で自分の姿を見ようと考えるが、ドアにベッドが引っかかり、廊下にも出ることすら出来ない。
なんなんだこれはと意気消沈して体の力が抜けてしまった。
そしてまたバタンと後ろに倒れ、天井を仰ぐ。ポスターのアイドルはニコニコと笑っているが、かえって小馬鹿にされているようにも思えて来た。腹立たしくて、ぺっと唾を吐いてやったが自分の顔にかかった。
嗚呼もう嫌だとふて寝して、そのまままたぐっすりと寝込んでしまった。
今度は一体どれぐらい寝たのだろうか。目が覚めると、すっかり背中とベッドは剥がれていた。「おお良かった良かった。これで自由の身だ」と独り言を言う。
カレンダーを見てみると、なんと三年前に逆戻っている。こんなこともあるもんかと思って天を仰ぐと、ポスターのアイドルがニコニコと笑っていた。
さてまず何をしようかと思案にふけ、ふと時計を見ると既に9時を回っていた。慌てて勤務先に遅刻の連絡をすると部長が出て、「そのまま一生休んでなさい」との言葉。優しさに甘えて今日はお休みを頂くことにした。なんだかデジャヴのようだ。
さてとせっかくのお休みだ。腹も減ったし何か食べにでも行こうかね。