黒幕の涙 #毎週ショートショートnote「黒幕甲子園」
その年の夏の甲子園大会、初出場の私立松緒高校が旋風を巻き起こし、決勝に進出した。
売りは高校生離れしたパワーを持つ4番バッター剛力猛と、負けず劣らずのパワーヒッターが揃った強力打線である。
決勝までにチーム全体で8本のホームランを放ち、甲子園記録を塗り替える勢いだ。
多少失点しても打線の後ろ盾があることで、投手たちも安心して投げることができた。
松緒高校野球部は全寮制である。快進撃のその力の源は、寮母の作る食事にあった。
御歳73歳の寮母、金野トラは引退を考え始めた3年前からスポーツインテリジェンスを学び、食事の中に密かにプロテインやクレアチンなどのサプリメントを混ぜ始めた。
「食べるのも練習だよ」
それがトラの口癖だ。
効果は徐々に表れて、3年目にしてついに甲子園に出場を果たした。
「みんながんばれーっ」
選手たち乗るバスを見送ったトラは毎試合中継を関係者と共に鑑賞し、決勝戦終了後には「最後に良い思い出をありがとうね」と涙を流したのだった。