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dorobouneco
今宵の月のように #毎週ショートショートnote『月夜の寝ぐせ』
その日アタシは、仕事で普段ならしないような大失敗をしてしまった。得意先からは「気をつけてくださいね」と言われただけで済んだが、上司からはしこたま叱られた。
「あー、もうヤダ」
そう呟きながら嘆息し、空を見上げると、曇り空の隙間からは綺麗な弓張月が覗いている。
「綺麗だなぁ」と思いながら、ボーっと空を見上げて歩いていたら、歩道の段差に気が付かず躓いて、さっきスーパーで購入した夕食用の肉やら野菜やら果物やらを盛大にぶち撒けてしまった。
「あー、もう本当ヤダ」
また呟きながらそれらを拾おうとしたら、見知らぬ男性が、何も言わずに黙々とそれらを拾い集めてくれている。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、その男性は寝癖でボサボサな髪を掻きむしりながら、照れくさそうにはにかみ、会釈をしてそのまま去って行った。
心にできた傷痕が、少しばかり癒えて行くのを感じながら、アタシは歌を口ずさみ、帰路に就いた。