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理想論 【ショートショート:約1400字】

てる子さんの記事から生まれた作品です。

「俺、デスノート好きなんだよね」
恋人の翠朗が言った。
「なんで」
アタシは問い返す。
「だってすごくない、あの発想。書いたら嫌いな奴ら殺せるノートって。マジあったら名前書きまくると思うわ」
翠朗が嬉々として言う。
「アタシはあんまり」
そう言うと、翠朗は不思議そうな顔でアタシを見つめた。
「だって、そんなノートを本当に手にしたら、きっと気が狂っちゃう。夜神月がそうだったみたいに」
「ふふっ、そんなガチで考えなくても」
小バカにするように翠朗が言った。
「前に『ラン・ローラ・ラン』って映画一緒に観たじゃない。アタシ、アレも嫌。失敗する度にやり直して、それを繰り返してハッピーエンドだなんて、正気の沙汰じゃないと思う」
「バカだなぁ、漫画も映画も、実際にはあり得ない、非日常的だから面白いんじゃん」
「そうかも知れないけれど、アタシは嫌いなのよ」
そんなくだらない造り物を、心から楽しいと言える、幼稚なアナタのこともね。

数日後、アタシは翠朗に別れを告げた。
同時にアタシの手首の傷が、また一筋増えた。

理想論。

わかっている。アタシはいつだって理想ばかりを求めて、理想論ばかり語って、誰かを傷付けて、自分も傷付けるのだ。

現実は理想通りにはいかない。そんなのは、アタシが生まれる遥か昔から続く、この世界の摂理だ。勝手に人間が、アタシの脳味噌がややこしくしているだけなのだ。わかっている。わかっているのだけど、時々世の中の何もかもがくだらなく感じられて、いつも理想論のシェルターの中に閉じ籠もりたくなる。

こんなアタシこそリセットしてしまえたら良いのに。いっそこのくだらない世界を受け入れることができたら、きっと楽になれるのだろうに。そうやってまた、自己矛盾に苦んでいる…。

「朱音、転生林檎って知ってる?」
蒼助が言った。新しい恋人だ。アタシは性懲りもなく、理想の男を探している。
「うん、知ってる。あの曲良いよね。特に歌詞がすごいなって思う。でも…」
アタシが言いかけると、蒼助は顔を顰めた。「俺はあんま好きじゃないんだよな。なんかさ、俺、平凡ってすごいことだと思っててさ。平凡でいられるって、そうなりたくてできることでもないじゃん」
いつになく真剣な表情で、蒼助が話す。彼はアタシと同じことを思っていた。
「うん、そうかも」
「リセット繰り返して、最後も結局どうなったのかわからないし」
「アレは、その林檎をゴミ箱に捨てたあと、どうやって生きていくかって…」
「宮崎駿かよ」
蒼助がバカにするように吐き捨てた。
「結局さ、平凡に生きるって、一番の理想なんじゃないかな。欲張らずに、普通の生活を送る。…だって俺ら、そういう風になれないじゃん」
そう言って、自分の手首の傷を、アタシの手首の傷に重ね合わせた。

そしてそのまま蒼助はアタシを物みたいにベッドに放り投げ、悪魔が憑依したかのように、乱暴にアタシを抱いた。アタシの命を蹂躙するように、愛を貪るように。

「お前は俺の物だ。逃がさないからな」
蒼助の言葉が、攻撃的なのに、何故か切なく耳元に響く。

蒼助を全身で感じながら、何度も何度も頭が真っ白になりながら、「アタシは平凡よりも、こっちの方が好きかも知れない」と本能で感じていた。頭では無く、体で。

理想論なんて、クソったれだ。
理想も幸せも、アタシが決めるのだ。

アナタがいてくれさえれば、アタシはもう、それで良い。


・・・・・・・・・・・・
なんか要望と違う気が…。


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