文学トリマー #毎週ショートショートnote
「えっとぉ、ここちょっと長かったんで短かくしてぇ、こっちも全体見てバランスとってみましたぁ」
鼻にかかった声の女が言った。
「いや、すごい。完璧に整っていて、僕が書きたかったイメージ通りになりました。ありがとうございます」
新人作家の男が礼を言った。
柊木妃菜、大手出版社に勤める若手編集者である。その見た目や口調は黒ギャルそのもの。異端だが、年間300冊の読書量に裏付けされた編集者としての才覚は「文学トリマー」と界隈で渾名される程。彼女にかかれば語彙力も表現力も無い俳優が書いた作品ですら、プロ仕様に仕上がる。
「正直、第一印象でちょっと心配したんですよね」新人作家が言うと「まぁ、見た目で判断する人ってろくな作品書かないしぃ」とバッサリ斬り捨てた。
そんな妃菜の弱点。
「えっと、ここを切ってここを整えてぇ、こっちの表現変えてぇ」
「あっ、あの…、全然原型が無くなってる気が…」
あまりに面白くない作品は、ほぼ原型を留めないほど書き変えてしまうのである。