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さくら(独白) #シロクマ文芸部『花吹雪』

花吹雪に抱かれながら、私はアナタに想いを馳せる。

アナタと出会ったのは小学生の時でした。

けれど、6年間同じクラスになることはなく、存在を認識しているぐらいのもの。

その後中学生になり、2年生の時に初めて同じクラスになりました。

家庭に問題を抱えていた私は集団生活にも上手く溶け込めず、陰鬱な日々を過ごしていました。そんな私に積極的に関わろうとする人はあまりいませんでした。特に女子との関わり方が、私にはよくわからなかった。

そんな私に、アナタは明るく話しかけてくれた。「絵、すごい上手だね」と。それ以来、毎朝挨拶してくれるようになった。「おはよう」と笑顔で言ってくれた。私も不思議とアナタにだけは、気後れせずに挨拶を返すことができたのです。

私はアナタに恋をした。
それは私にとって、初めての恋でした。

アナタはいつも、誰に対しても分け隔てなく笑顔で接していた。だから、アナタにとって私が特別じゃないことはわかっていた。

成績も優秀で運動も出来て、いつも多くの友人に囲まれている。同じ空間にいるのに違う世界を生きているアナタ。私のような人間にはアナタの笑顔は眩しくて、神々しくて、だから同じように勘違いをする人が少なくないこともわかっていた。

それでもその時の私には、そんなことはどうでも良かった。アナタの光によって闇から抜け出せた私には、アナタが私と同じ空間を、時間を共に過ごしてくれていればそれで良かったのです。

異性を意識するようになり、身なりにも気をつけるようになった。心が前向きになったことで、成績も上がった。全てはアナタのおかげです。

中学校の卒業式で、タイムカプセルを埋めました。その時私は誓ったのです。高校に入ったら生まれ変わり、アナタに相応しい存在になることを。

そして私は、それを実践しました。

自分から同級生に声をかけ、友人が増えました。同性も、異性も。性格が明るくなったことで成績もどんどん良くなり、何もかもが好転していった。

高校は別だったけど、共通の友人を介して時折り一緒に遊ぶことができた。アナタとの距離感が少しずつ近づいている実感もあった。しかしまだ、アナタに想いを告白する勇気は得られなかったのです。それをすることでアナタを失うことは、私には恐怖でしかなかった。

そうこうしている内に時間は過ぎ、次第に私の知らないアナタの噂話が耳に入るようになりました。あまり質の良くない人間と付き合っているらしいと。正直なところ、私自身アナタの印象が少しずつ変わっていくのを感じていました。元々違う世界を生きるアナタです。仕方がないことだと感情を押し殺そうと考える反面、噂とは言えやはり苦々しく感じていました。

高校3年の春から半年くらい、アナタはアメリカに留学をしました。一緒に過ごした仲間の影響でしょう、帰って来たアナタは別人のようだった。日本のルールの窮屈さを訴え、自由を崇拝するようになった。

日本にいない間に母が不倫をし、両親の離婚が決まったこともあるのかも知れない。アナタはどんどん不安定になっていった。自分を傷つけ、挙げ句の果てにら質の悪い者と付き合い始め、どんどんおかしくなってしまった。

許せなかった。

アナタを壊してしまった環境も、何より、汚れてしまった私の太陽を、私は許すことができなかった。アナタは私の全てだったのだから…。

桜の木の下で花吹雪に抱かれながら、アナタに想いを馳せる。記憶の中のアナタに。

桜の木の下に、タイムカプセルと共に埋まる、あの頃の愛するアナタに。


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