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14. 間違えて他国の通貨で支払いをしてしまった夜
スリランカの旅を終えてもう一年も経ったというのに未だに旅行記を書き終えていないのは、そのエピソードの多さが所以だろう。もっともその要因は僕が「サボったから」なのだけど、ちゃんと完結させるのでお許しください。
とはいえ、そろそろ終わらせたいという気持ちが強いので、ここからは出来事を抽出して取り上げようと思う。
スリランカのビーチリゾート、ヒッカドゥワにいたときのことだ。
ビーチリゾートというのは一般的に外国人(ロシア人)が多いが、ヒッカドゥワもその例外ではなく、小さな街に歩いている三分の一くらいは外国人であった。ゆえに外人向けのレストランが非常に多くてなんだか風情がないのだ。
もちろん、外人向けというのは「=おしゃれ」であり「=なんか安心して食べられる」のだが、なんと言っても値段が高い。ローカル食堂みたいなところに入ると、カレーは200円くらいで食べられるのに、こういうところは普通に日本と変わらないし、それ以上な気もするのだ。
一度だけ外人向けの店でフライドライスを頼んだが、それはサービス料を含めて600円くらいだった。
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安いのを探して選んだのだ。他のメニューは平気で2,3千円のものが多かったから、お得だろう。海沿いにあるお店で、脛を海に浸らせて釣りをする現地人を見ながらゆっくりと食事をとった。
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海風が椰子の木をささやかに揺らし、夕陽がゆっくりと沈む様子をただひたすらに見つめた。
フライドライスは美味しかったけど、まだ何か食べたい。これは空腹だから食べたいというものではなく、「せっかく海外に来たのだからもっと食べたい」というものから派生する特殊な食欲だ。
とはいえこの店で他のものを頼むと高くつく。僕はケチな学生なので、一旦この店を出て、ローカルな場所を探すことにした。
しばらく歩き回ったが、海沿いの大きな道にそれらしきところは殆どなく、皆一様にして外人向けレストランだったので諦めてホテルに帰ろうとした。
ホテルへは海沿いから中に入って3分くらいですぐに着く。なんと、その道中にシンハラ人で賑わう小さな店があったのだ。
食堂というよりカフェのような佇まいで、屋根も外壁も自然にあるもので自作したように見える場所だった。オーシャンビューではなく、線路ビューのカウンター席とテーブルがある。北鎌倉あたりで江ノ電の路線の目の前にあるようなカフェと考え方は同じなのだろう。
椅子は全部で5脚くらいしかないのだが、運良く一つ空いていたので、吸い込まれるように僕はその椅子に腰掛けた。
席に座るとすかさずピンクの派手な服を着たおばちゃんが無言でやってきて、僕が注文するのをにこやかな表情で待っている。
入った店にメニューなどはないようなので、とりあえず横の席に座ってワーワー独り言を呟いているおじさんが食べているものを指さした。
「バナナロティ?」
どうやら、おじさんが食べているのはバナナロティというものらしい。ロティはクレープ生地の甘いもので、タイで食べ慣れているからもう100%美味いのは知っている。
もう一つくらい食べたいと思って、チョコレートロティも頼んでみた。まあ今日はたくさん歩いたし、甘いものを食べてもいいでしょうよ!
「ティー?」
と聞かれたのでもちろんイエスと首を縦に振る。本場、スリランカで飲むお茶は格別なのである。
「ちょっと待っててね」
的なことを英語なのかシンハラ語なのか分からない、とりあえず聞き取れない言語で彼女は言ったが、言語というのはときに聞き取れなくても通じるものである。
ロティをつくってくれている間は特にすることもないので、スマホをいじってもいいのだが、そんなスマホを触る暇もなく、隣の元気なおじさんが僕に対して笑顔でワーワーと言っている。
これに関しては完全なるシンハラ語であるが、「どこから来た?」と言われているような気がする。
「ジャパン」
僕は彼にそう言ってみる。
「オウージャパン、ニャ…ワーワーワーワー」
よく分からないが、ここのロティは美味いんだぜ的なことを言っているようである。知らんけど。出来上がりのロティ、とても楽しみだ。
「俺もそろそろ行かなきゃならねえ。にいちゃん、素敵な夜を過ごすんじゃぞ」
おじさんはそんなことを言って席を立った。もちろんシンハラ語であるし、僕はそれを話せやしない。
陽気な彼が立つと同時に僕のもとへお茶とロティが来る。ポロシャツを着ている、これをつくってくれたお父さんが運んでくれた。
どうやら注文も落ち着いたようで、陽気なおじさんと何やら一言会話して、おじさんが暗闇へと消えるのをあたたかい眼差しで見送っていた。
ロティは無論美味しかった。バナナは火を通すとこれほど甘くなるのかと思い知らされる。そう考えると我々が普段焼かずに食べるバナナというのはそのポテンシャルを十分に発揮していないことになる。じゃあ日本で常日頃からバナナを焼くかと言われれば、それはまた別の話だ(面倒くさい)。
チョコレートロティも言わずもがなの美味しさであった。もちもちとした生地に包まれた、あの馴染みのある甘さが口いっぱいに広がる。異国なら異国のものを、と、これまで散々カレー味の何かばかりを食べてきた口を潤してくれる。
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そしてその甘さをかき消す爽やかでちょっぴり濃いセイロンティー。夜に紅茶は睡眠のために飲まないようにしているけど、スリランカ滞在中は特別。
列車は1時間に1本ほどしか通らないから、僕がこの店にいる間に列車がやってくることはなかった。が、この風情ある場所で現地人とともに時間を過ごすことこそ海外旅行の醍醐味ではないか。
僕はお会計をするのに厨房前のカウンターに行った。だいたいこれで300円くらいだったと思う。現金を取り出し、支払いを済ませる。お父さんが50ルピー札をじっーと見て裏表を確認している。発展途上国ではお札が破れていないか確認する行為はよくあるものだから、何も違和感はない。
僕はここの店の写真を撮ってもいいかとお父さんに聞いた。彼はもちろんと笑顔で言う。ファインダーを覗き、シャッターを切る。
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「また来るね」
僕は拙い英語でそう言ってこの店を後にした。もちろん、翌日にも訪れたし、ヒッカドゥワ滞在最終日も行こうとした。しかし朝から昼にかけてはやっていないようであった。結局、ヒッカドゥワ滞在中の3日間のうち2度訪れた僕のお気に入りのお店である。
僕がこの店にはじめて訪れて3日後、ついに日本へ帰る日が来てしまった。日本へはマレーシアのクアラルンプール経由で帰った。トランジット時間が半日もあったので当然入国する。それに、先月カンボジアへ訪れたときもクアラルンプール経由であったから、その際に1万円分のマレーシアの通貨へ両替をしていた。あと2,000円くらい残っていたはずだ。
マレーシアで2,000円あれば何でも食える!と思った矢先、財布を覗くとマレーシアリンギットが500円くらいしかないのだ。なにゆえ!?
僕は思い出した。あのお気に入りのロティ屋さんで50ルピー(25円くらい)だと思って渡したお札は50リンギットだったのだ。日本円にして1,200円くらい。くそー!悔しい!が、あのロティはそれくらいの価値はあったはず。
お父さん、通貨違うよって言ってくれればいいのに。と思いもしたが、割と寡黙な人だったし、リンギットの価値を知っているとは思えないし、まあいいや!クアラルンプールでは残金の800円でカオマンガイ的なやつを美味しくいただきました。
あの小さなお店が、ヒッカドゥワに何年後かに訪れた時もありますように。そのときはお父さんに、50マレーシアリンギットを見せて。
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【追記】
ここが名もなきロティ屋さん。ヒッカドゥワに来た時はぜひ。なぞに評価1ですけど。ちなみにホテルはFinlanka Hotelというところに泊まりました。日本人だから朝食無料にしてくれるという謎待遇を受けられる、コスパ最強の綺麗なホテルです。問答無用でこのホテルに泊まってロティを食え!そのためにスリランカに行け!
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