パリへの心は燃えているか 行って幸せ行かなくて幸せ 渡仏延期のY君へ
料理修業渡仏直前の外出禁止令再びのパリ、わが料理若い衆 Y君に降りかかる困難。つらいやろうなあ、いつまでとかの見通しが立たぬ。しかし元気そうや。うん、料理始めて十年くらい今まででもいろいろ乗り越えてきたもんね。なにより誰かのきつい言葉や君にしてみればの無理難題、やってきたじゃないか、あきらめんとここまで来てパリで料理続けて来たやんか。
なあ、料理は不思議や、あれやこれやをやって自分のスキルと考えと経験が人の気持ちに迎えられ、その人の身体のなかへ届くんやもんな。ワンダーやなあ。日本料理、フランス料理、考え方、スキル、経験は違ってて、受け取る人も受け取り方は千差万別、百家争鳴、百花繚乱。でもね、動き方は違って見えてもね、動くのは心や、食べる人の心だけやない、ぼくらのそれもや、いや、このまわっているレストラン商売のひとの交わりたくさんの手や。いや、そうや日本人フランス人関係ない、自分の手と足と精神や、シェフの真心や。
何処にいててもええやんか。今困難な日々過ごしてるムシューもマダムもアンファンテリブルも老若男女も君を待っている、人の心に寄り添う君の料理を待っている。ほんまやでぼくには分かる。いまやほとんどのシェフが生まれる前から料理続けさせてもらってるぼくが言うのやからね。
フランス行って良い料理を作って辛い思いでいる人に差し出す手は一流のシェフの全身全霊。そう思ったら毎日今、できること見えてくるやろ。なあ、お互い何があっても元気で料理してる間は一生懸命踏ん張ろう。今パリに行けるのも良い行かんのも良い。
いやすまん。また説教調になってしまった。君はもうすっかり独立したひとりのシェフやもんね。ここで今言ったことすべて自分へ引き受ける。ぼくも毎日良い料理つくる。上機嫌でいます。ぼくは職場の潤滑油や自分が錆びててどないする。Y君、お互い謙虚でいよう、事あるごとに謙虚になるのは簡単やけど、食べ物に対して、仲間に対して、お客さんに対して、そしてなにより料理に対して変わらず謙虚でいよう。じゃあね、またね。ありがとう。オランジェリーより素晴らしい場所は君のなかにある。モネによろしく。