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外出禁止のパリに残留を希望する理由

Covid-19がヨーロッパ諸国で猛威を振るう現在。日ごとに死者数が増え続け、日本に帰国すべきなんじゃないの?という深刻な状況。毎日現地のニュースを確認し、フランス国内の状況や医療破綻に至っているイタリアの惨状は理解しているつもりだ。自分も感染してしまう確率が少なからずあることも、理解しているつもりだ。それでもできればパリに残りたいと思っている。

その理由をひと言で表すならば、世の中が変わる、それを肌で感じることができるからだ。そしてこの臨場感のようなものが、世界への興味を引き出してくれるからだ。

こんな風に表現すれば、"大げさで偉そうな、なんちゃって意識高い系のイタイ恥ずかしいヤツ"のようにみられるかもしれない。でもこの気持ちは、今まであまり感じたことのない、ヨーロッパにいるからこそ感じられた気持ち。とても貴重に思われるため記録に残しておこうと思った。


EUは本当にまるでひとつの国だ。

通りに出れば多様な人種の人々と出会う。もちろんアフリカやアラブ、アジアといったヨーロッパ以外にルーツをもつ人々はすぐに見分けがつく。しかし実はEU圏内からの移民とその子孫も非常に多く暮らしている。戦後の労働力としてイタリア人、ポルトガル人、スペイン人が流入し、今では東欧系や北欧系の人々も目立つ。複数の国籍をもつ人だってたくさんいる。もはや混ざりけのないフランス人ってどんな顔をしているのか、私にはわからない。

それだけではない。スーパーを訪れれば、棚にはフランス産よりもスペイン産の野菜やフルーツの方が多く並んでいる。ヨーロッパ諸国に旅行へ出かけようと飛行機に乗っても出入国審査は受けず、国内旅行なんじゃないかと思わされる。

それだけ自由に人と物とが行き交う国境なきヨーロッパが、このパンデミックによって実質鎖国状態に至ったのだ。

約10年前にギリシャ危機が起こり、それを何年たっても救済できないでいる中、歴史的なBREXIT。欧州連合に綻びがみえはじめた中で起こった今回のパンデミックがこの状況をつくりだした。移動の自由はEUの目的といっても過言ではないし、そもそも移動の自由を保障するシェンゲン協定はEEC時代より続く戦後ヨーロッパの硬い絆の象徴のようなものであるはずだ。それが破られる事態、それはちょっとやそっとの危機ではない。

そして危機的状況に置かれているのはヨーロッパだけではない。一番最初に大国・中国が打撃を受け、アメリカでの悲劇もはじまっている。皆保険がないことや医療費の高さなどを理由に、もともとアメリカはパンデミックに弱いといわれているから、事態は深刻化し続けるだろう。

世界を動かしている主要な国々が同時に危機に陥っているのだ。

少々差別的な見方になってしまうかもしれないが、同じ感染症であるSARSやMERSウイルスの流行との違いである。また、9.11アメリカ同時多発テロ事件や日本の3.11と福島原発事故など、世界を震撼させる出来事は度々起こってきたものの、何か国もが同時に打撃を受ける出来事はあまりない。第2次世界大戦以来なのではないだろうか?

そしてこの危機の後にやってくるであろう世界的な大不況とそれが誘発するナショナリズムの台頭。負の連鎖が頭をよぎる。きっと世界はこれを機に大きく変わっていく、そう思わずにはいられない。


たぶん日本で過ごしていたら、この事件、Covid-19の流行がそんなにも大きなことには思えなかったはずだ。インフルエンザの流行とさほど変わらない感想しか抱かなかっただろう。けれど私は今ヨーロッパにいる。外出禁止下に身を置き、それによって芽生えた当事者意識が好奇心をかき立てている。世の中のことをもっと知りたいと思うし、建築を学ぶものとして今何を考えるべきなんだろうかと自分に問うてしまう。が、まだよくわからない。

ドゥルーズは、"不法侵入を受けたようなショックなときに人は思考する"というような内容のことを述べている。パンデミックが平和な留学生活に不法侵入してくれたおかげだ、とポジティブにこの外出禁止期間を過ごしたい。これが私が帰国を希望しない理由なのだ。



一応注釈を入れておきますが、強制帰国を言い渡されたらちゃっかり帰国します(笑)


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テラス席の椅子や机がすべて片付けられたカフェ

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JOYという看板に似つかわしくない閑散とした通り

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いつもは観光客で賑わうマレのユダヤ人街

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LGBTカルチャーの中心地であるマレにとり残された寂しげな虹色の横断歩道

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