比較文化Ⅰ

経緯について

課題内容

 1.文化の違いはどのようにして生じるのか 
 2.文化は言葉にどのように現れるのか? 教科書で述べていない新たな例を見つけて説明しなさい.

答案要約(忙しい人向け)

  • 文化の違いを生む要因は、自然環境、人間観、宗教の3つ

  • 日本の稲作文化は協調性を促進し、畑作文化の欧米では個人主義が根付いた

  • 人間観の違いとして、アメリカは平等で自立を重視する社会、日本は年長者を尊重し、集団志向的

  • 宗教も文化に影響を与え、日本では神道や儒教が協調性や自然への畏敬の念を育て、西欧のキリスト教は個人の自律を重んじた

  • 文化が言葉に現れる例として、日本語は「兄」「弟」など年齢関係を区別、英語は”brother”で統一

答案(評価 A)

(1)
 文化の違いをもたらす要因には、自然環境、人間観、宗教の 3 つがある。
 自然環境については、稲作文化と畑作文化がある。日本で定着した稲作文化では、個人で多くの収穫を得ることはできない。田植えや稲刈りをするのに村人と協力しなければならず、他の田んぼにもきれいな水がいき渡るよう配慮するなど、稲作をする中で集団で協力する生活態度が培われた。また江戸中期以降、小規模の農家は生産性向上のために懸命に稲作に励み、日本人の勤勉性を培ってきた。
 一方の畑作文化では、小麦は播く時期を間違えなければ自然まかせで収穫ができ、個人単位で栽培することができる。稲作とは違い、多くの人が集団で協力し合う必要性は低い。
 このように自然環境は人間にとって生きていく上で重要な食糧生産の方法を決定し、そこで働く人の思考様式の基礎を作り出したと言える。

 次に西欧と日本の人間観を見る基準として、個人志向か集団志向か、ヨコ社会(平等)かタテ社会(上下関係)か、自立的か依存的か、という違いがある。
 アメリカ社会は平等社会であるが、これは古代ギリシア人に個人の自由・自立を重んじる思想があったことに根ざしている。地中海貿易に適した地理的場所によって、商人は地中海沿岸のさまざまな民族と自由に交易をすることができた。また、ギリシア社会は都市国家であり、市民はその都市に批判的な意見を述べても隣国に保護を求めることができる社会であった。
 一方の古代中国では、皇帝が大きな力をもち、農村を支配する中央集権的な国である。広大な帝国から他国に逃れることは困難で、ギリシアのように隣国に保護を求めることはできなかった。また、古代中国南部の農民は、村の中で年長者に従い、稲作のために協調的に行動する必要があった。他の村人との関係や村を支配する年長者や官吏との関係など、村人たちは複雑な人間関係の中に自分の存在とその役割を規定していたのである。

 宗教的信念もまた文化の違いを生む重要な要素である。
 日本にはいくつかの宗教があり、自分の幸不幸の原因は自分の行いにあるという因果応報の考えを説く仏教に加え、自然には至るところに神が宿るとの考えを説く神道は、人々に自然へ畏敬の念を抱かせた。元旦の初詣やお宮参り、七五三など、現代の習慣も神道の影響を受けている。さらに、儒教の五倫・五常という考えは、年長者を敬うことや夫婦の役割分担など、日本人の人間関係や倫理観に依然として大きな影響を与えている。
 一方、ユダヤ教・キリスト教は現在のイスラエル周辺で生まれたが、砂漠に囲まれた過酷な自然環境では、水を争って他の部族との衝突が避けられない。一神教は他の神を受け入れることが難しく非寛容になる傾向があり、多くの戦争や紛争が起きている地域は一神教の国同士である場合が多い。
 アメリカに浸透しているピューリタニズムは、聖書に忠実であるべきとして、生活のすべての面で清い生活を求める禁欲主義である。個人は、世俗の君主や任命された教皇ではなく、神に対して責任を負う。個人を律して、その宗教を実践する自由は不可侵の権利であるという考えは、個人の自律・宗教の自由の源泉と言える。また、職業は神から与えられたものであり、勤勉で倹約に努めることが奨励されており、アメリカの資本主義の発展に寄与している。

 以上のように、文化の違いをもたらす要因には、自然環境、人間観、宗教がある。様々な自然環境によって生産手段が変わり、人間の思想や気質に影響を与え、宗教もまた人間の生き方を方向づける。社会の文化の違いにはこれらの基準が見られる。

(2)
 日本語と英語における家族の呼び名には特徴的な違いが見られる。ここでは一例として「きょうだい」という言葉を取り上げる。
 英語の “brother” は日本語で「兄弟」 と訳されるが、実際に「兄」か「弟」かは前後関係で判断するしかない。”syster” も同様であり、「兄」「弟」「姉」「妹」というような年齢関係を表す言葉が英語にはない。
 奥津 [*1] によると、日本では古来、長幼の序が重視されており、兄と弟を “brother” のように同じ語で表すことは考えられないことで、英米では「息子」「娘」という呼び名で十分であるのに対し、日本では家を継ぐ者として長男が大切であったことが述べられている。
 このように、日本語では年齢の高低を明確に区別するのに対し、英語では年齢の高低を区別する単語は無く、さらに “sibling”(兄、弟、姉、妹)という男女の区別すらしない単語もある。この違いに現れる文化的な側面として、日本では儒教の影響を受けて男女の別や年齢を重視するようになったこと、英米では(性別や年齢を超えた)個人の意志や自律性を重んじる考えを反映していると思われる。

参考文献
[1*] 奥津文夫 : 和洋女子大学 紀要 第 38 集(文系編)1998 年「日英語対応語義範囲のズレと文化的背景 ‐ 家族内の人間関係を示す語を中心に」


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