肺胞死腔・解剖学的死腔・生理学的死腔,何が違うん・・・? - 【one-pointシリーズ】
死腔って何?
死腔(dead space).少年漫画の設定ででてきそうな物騒な名前ではありますが・・笑.死腔とは正常な換気が行われていない領域を指します.
具体的には「ガスの出入りはあるが,ガス交換のための血流を欠く領域」のことです.いくら酸素が入ってきてもそれを受け取る血流がないと何の意味もないですよね?
逆に血流はあるけれども,ガスが入ってこない領域のことを「シャント(短絡)」と言います.シャントに関してはまた今度👋
死腔には種類がある.
表題の通り,死腔には種類があります.といっても難しい話ではありません.要は次の通りです.
『『生理学的死腔』= 『解剖学的死腔』+『肺胞死腔』
肺胞死腔は健常な状態ではほとんどないとされているので,通常の状態で死腔といえば解剖学的死腔のことだと思って大丈夫です.では,解剖学的死腔とはどのような領域を指すのでしょうか?
解剖学的死腔とは・・?
解剖学的=生理学的と言うくらいですから,誰でも普通に持っていて別に病気ではないです.それでは口や鼻から空気が入ってきて,肺の末端である肺胞までの道を考えてみましょう.ガス交換が行われるのはどこですか?・・・・・そう.肺胞(+呼吸細気管支〜)ですよね?つまり,そこまではただ空気が言ったり来たりするだけのただの管です.それを小難しく『解剖学的死腔』と読んでいるだけのことなのです.
量はだいたい決まってる.
難しくなかったですね.この死腔の量は試験でも問われることがありますが,普通の体格の成人でおおよそ”〜150mL”となっています.口腔〜肺胞手前のまでの量って実はそんくらいしかないんですね.そしてこの解剖学的死腔は基本的に増えません(体の成長中は除く).一応推定計算式があります.
解剖学的死腔の量(mL)=体重(kg)×2.2
この値は身長,体重,体格,年齢(成長期)によって変動するためあくまで目安です.ボーアの式を用いる方法などもありますが,条件もありますのでとりあえず体重のおおよそ2倍ちょっと程度だと覚えておきましょう.日本人女性だと150mLというのはちょっと多いですね(おそらく男性や欧米人目安が由来かな?)
あと少しだけ・・・死腔換気率(VD/VT)
死腔の量がだいたい同じということは,1回換気量に占める割合もほぼ同じということです.成人の1回換気量がだいたい500mLとするとおよそ30%.だいたいこの数値に収まる(20〜35%)くらいで,この割合のことを『死腔換気率(VD/VT)』と呼びます.VD(Dは通常小さめに書かれる)のDは英語の死腔(dead space)の頭文字,VはVolume,TはTidalの略です.
下記に示すような病的な状態になり,この比率が高まるということは,適切に酸素を取りこめていないということですから,酸素供給効率が悪化します(低酸素血症).
ちなみに解剖学的死腔は小児から成人へと,体の成長に伴って絶対量は増加していきますが,割合はほとんど変化しないとされています.
最後に『肺胞死腔』とは・・・・
肺胞死腔は,本来ガス交換が適切に行われるはずの肺胞で,血流を欠く(または適切な血流量を下回っている)状態を指します.そのような病態になる疾患の代表的なものは,肺血栓塞栓症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)です.
それぞれの疾患に関しての詳しい情報はまた別の記事で取り上げますが,肺血栓塞栓症では血栓により肺動脈が閉塞されて血流が途絶えることで,肺胞内の酸素を利用することができません.
COPDでは肺の正常な構造が破壊されることで、換気は行われてもガス交換が十分に行われない肺胞が増えます.
麻酔科領域でこの病的な肺胞死腔が増加しているかどうかは,PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)とPETCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)の差を見ることで推定できます.この差が大きい場合には肺胞死腔が増加していることが示唆されます(通常はこの差は3〜5mmHg程度).肺血栓塞栓症が生じたときはそれどころではないかも知れませんが,今度COPD患者さんの手術があり,動脈ラインをとるときには,普通の患者さんと比べてみるとよくわかるかもしれませんね👍.
用語は食わず嫌いせずにきちんと理解すると,いろんなことの理解が広がる👍
どうでしたか?特に看護師さんでちょっと小難しい生理学用語に著しいアレルギー反応を呈する方がいますが(笑),実はそれほど難しいことを言っているわけではないことも多々あります.ほんまにややこしい分野もありますが.
医学用語だけではなく,ものの名前の意味やその語源など(特にギリシャ語由来の名前など)を知るすることで,その周辺分野にまで理解が広がることはよくあります.ぜひ気軽に調べてみたりすることをオススメします.いまはAIという力強い味方がいるので🤗
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