T&S,交差適合試験,不規則抗体・・用語がいっぱい
血液型の話の質問をよく受けるので,こちらの記事でも基本的なことを説明したいます.
Type & Screen:タイプアンドスクリーン
Type & Screenって何?
Type and Screen.入院時検査で見たことがあると思いますが,いったい何のことでしょう.一言で言うと,「輸血の効率的な使用のための輸血準備方式の一つです」.
ある手術において,「ひょっとしたら少し輸血がいる程度の出血があるかもしれない,でも使わない可能性も高いな〜」という時,とりあえず患者さんの血液型と不規則抗体(後述)の有無だけ調べて,その患者さん用にとりあえず優先的に使えるようにストックしておきます.使えばよし,もし使わなかった場合は別の必要な患者さんに回すことができる,そういったシステムです.
具体的な基準はある?
先ほどは必要性に関して曖昧な表現をしましたが,一応の基準はあります.術中に輸血する可能性が30%以下、あるいは輸血しても2単位以下の場合です.ま,結局曖昧ですけど😅.
不規則抗体が陰性(ない)の場合には,後述する交差適合試験(クロスマッチ)を行わずに(省略し),ABO型の適合性のみの確認で輸血を行うことができます.
ではその交差適合試験(クロスマッチ)って何でしょうか.
交差適合試験(クロスマッチ)
クロスマッチって何? クラスマッチじゃないよ.
現場で”クロスとった?”とか”クロスマッチ済んでる”などと聞いたことがあると思います.
交差適合試験(クロスマッチ)とは,致命的になり得る血液型不適合輸血を防ぐために行われる,輸血前の大事な試験のことです.病院では輸血部や検査科で行われます.
主試験と副試験
交差適合試験には輸血される赤血球と患者血清の反応を見る主試験と、患者血球と供血の血清との反応を見る副試験とがあります。
ちなみに何が「交差」しているかというと,供血赤血球と患者血清,供血血清と患者赤血球の反応を見るため,血球と血清が互いにクロスしているように見えるからです.
「主」と「副」と書いてあるように,主試験の方が重要です.免疫反応を起こす物質は血清に含まれているので,入ってくる赤血球に対して免疫反応を起こすと血球成分が破壊(溶血)されてしまい,重篤な症状を呈します.そのため主試験が陽性であった場合には「絶対に」輸血してはいけません.
逆に主試験陽性,副試験陰性だった場合にはもちろん輸血しないのが望ましいのですが,一刻も早く輸血を行わないと生命に関わるという場合には慎重に観察を行いながら輸血することが可能です(できるならしたくないですね).
では副試験の重要性は・・?
主試験とは逆に,患者の赤血球に対して供血に含まれている血清が免疫反応を起こすかどうかを検査します.供血血清に含まれる抗体の量は比較的少ないとされているため,主試験が陰性であれば副試験陽性の供血赤血球の使用が緊急時に限り容認されます.ですが,上で述べたように使用時には慎重な観察が必要になりまし,生じる可能性のある免疫反応が生じても軽度であるという保証をしているわけではありません.
不規則抗体について
何が”不規則"・・?
"不規則"抗体と言うからには"規則"抗体があるわけですが,それが一般の人にも馴染みの深い「ABO血液型」の名前の由来である「抗A抗体」,「抗B抗体」です.ほぼ全ての人に生まれながらに常に存在し,検出が予測可能なため"規則"抗体と呼ばれます.これらの抗体は,赤血球表面にある抗原に対する抗体のことです.
抗A・抗Bの「規則抗体」に対し不規則抗体と呼ばれる抗体は,全ての人が持っているわけでもなく,輸血や妊娠を契機に形成されることもあり,検出が予測不可能なことから"不規則"と呼ばれます.つまり・・
規則抗体:お馴染みのABO血液型判定に用いる抗A抗体,抗B抗体のこと
不規則抗体:それ以外の赤血球に対する抗体のこと
抗A抗体と抗B抗体は超重要ですが,不規則抗体は「ものによりけり」です.種類も200種類以上とたくさんあり,その臨床的意義も高いものから低いものまで様々です.
最も有名な不規則抗体は,Rh系の不規則抗体です.「私の子供はRhマイナスのA型なんです!」など,医療系の方々でなくともテレビやドラマで聞いたことがあると思います.さらにこのRh系の抗原にも種類があり,臨床的に重要なものとしてC,c,D,E,eの5つがあります..
この中ではD抗原が最も抗原性が強く、2番目はE抗原です。これら抗原に対する抗体抗原反応は遅発性の輸血副作用や新生児の溶血性疾患の発生要因とされています。
ちょっとややこしいのは,一般的に「私,Rhマイナスなの」と言えば、RhD”抗原”を持っていないことを指します。輸血のラベルの隅にもD(Rho)陽性(これはこの製剤の赤血球はD抗原を持ってますよという意味です)がなどと書かれているのでチェックしておきましょう.
これらの不規則抗体は,不規則抗体スクリーニングを行うことで検出されます.
RhD陰性患者は何が問題・・?
一般的に問題になるのは、手術や外傷などでの大量出血に対する緊急輸血時と、RhD抗原陰性妊婦がRhD抗原陽性の胎児を妊娠した場合(血液型不適合妊娠)です。
RhD抗原陰性妊婦がRhD抗原陽性の胎児を妊娠すると、分娩時などに胎児の血液が母体内に侵入しRhD抗原に対する抗体ができます。第1子に影響がでる(強い黄疸など)ことはほとんどありませんが、第2子以降では、母体内のD抗体が胎児の赤血球のD抗原を破壊することで貧血が生じるとともに新生児溶血性黄疸がおきます。これは妊娠を繰り返すとともに重症化すると言われています。
予防として、出産後72時間以内に抗Dヒト免疫ガンマグロブリンの接種を行うことが一般的で、最近では重症の黄疸の頻度は低くなっています。
大量出血時などにRh抗原陰性患者に適合した血液が入手困難な場合には、救命のためにRhD抗原陽性の血液を投与せざるを得ない場合があります。ただし、Rh抗原陰性血液が入手できしだい切り替えなければいけません。特に女児や妊娠可能女性の場合は上記の理由で重要です。この場合の女性の場合,第一子から溶血性黄疸を起こすリスクが高まります(上記の第二子以降と同じ状況).
RhD抗原陰性患者にRhD抗体陽性の血液を緊急投与した場合には、48時間以内に不規則抗体検査を実施し抗D抗体が検出されない場合には抗Dヒト免疫ガンマグロブリンの投与を考慮します(効果は限定的な場合もあり)。抗D抗体が検出されてしまった場合には遅発性の溶血性副作用が生じる可能性が高いとされているため、患者の慎重な観察が必要になります。
よく受ける質問・・抗体と抗原,持ってるか持ってないか
この話をすると,「D抗原を持っている人はもともとそれに対するD抗体を持っているんですか?だとするとなぜ抗原抗体反応が起きないのですか?」と聞かれることがあります.確かにごちゃごちゃ勘違いしそうなところです.
基本的に抗体は,「自分ではないもの」に対して体内で生成されます.ウイルスが入ってきてそれに対する抗体ができるのはそれが「自分ではない」からです.生まれつき持っているD抗原は「自分」です.そのためD抗原を持っている人はD抗体を持っていません.これを免疫寛容(自分で自分を攻撃しない)と呼びますが,これは他者の赤血球上の発現しているD抗原にも適 用されますので,基本的に安全に他者の赤血球を投与することができます.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?