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自分のものが一番安心!〜自己血輸血〜


 整形外科や産婦人科等がある病院では「自己血あります」という言葉を聞いたことがあると思います.その名の通り,献血の時のように血液を一定量抜いて,必要な時(手術時など)に再投与する輸血方法です.
 ここでは一般的な「貯血式自己血輸血」について説明したあと,手術中に行われる「回収式自己血輸血」についてお話しします.

自己血輸血・・そのメリットは?

 世の中には輸血製剤があるのに,どうしてわざわざ自分の血を抜いて貯めておくのでしょうか?
 まぁなんといっても「もともと自分のものが一番安全!(^^)v」ということですけどね。

感染や免疫反応のリスクを回避できる

 人工血液が実用化されてない現在,輸血は”他人”の血液を入れます.色々な検査をされており,一定の安全性は保たれていますが,何らかの感染症のリスクがゼロに近くてもゼロとは言い難い点があるのと(そもそも未知の感染症がある場合はどうしようもない),やはり免疫反応等による輸血合併症は一定頻度で生じます.
 自己血輸血ではそもそも自分の血液なので,感染やGVHD(移植片対宿主病),TRALI(輸血関連急性肺障害)などを回避することができます(輸血合併症に対しては別記事で掲載).また,不規則抗体による問題もありません.もっとも,採血時の微生物の混入による汚染を起こさない様に注意することや,適切に保存すること(4〜6℃で35日間)が重要です.

限りある資源を節約できる

 輸血は無限にあるわけではありません.献血者の善意のもと供給されているものですから限りがあります.さらに最近では猛暑やコロナウイルス蔓延により献血者が減少しているというニュースも流れています.
 自己血の使用は資源節約という意味でも有効です.

どんな手術でも貯血式自己血輸血はできるの?

 ただし,どんな手術でも可能なわけではありませんし,輸血の必要がない患者さんではそもそも必要がないですよね.一般的には「循環血液量の15%以上の術中出血量が予測される場合(おおよそ500〜1000ml程度ですね)や,稀な血液型や不規則抗体を保つ場合」で,手術までに貯血に十分な時間がある場合に考慮されます

手術の種類

 手術では心臓血管外科、整形外科、婦人科手術、前立腺手術などで用いられます。もちろん緊急手術には間に合いませんので使用不可です.

患者側の適応

 もともと貧血がある場合は採血によりさらに貧血が進んでしまうため,行われません.原則として血清ヘモグロビン値として11.0g/dL以上が必要とされています.
 また,RhD陰性などの日本では比較的稀な血液型や稀な不規則抗体を持つ場合には積極的な適応となります。
 禁忌としては、全身性の感染症やそれがが疑われる場合です。例として、熱発、下痢、抗生剤服用中、熱傷患者、露出した感染創のある患者、3週間以内の風疹や流行性耳下腺炎などの患者、などです。全身状態に問題がなければ特に年齢制限はありません.

どのくらい貯血可能?いつ採血するの?

 手術の2〜3週間前ごろから1回400mlを2〜3回にわけて貯血します。通常400〜800ml程度貯血することが多いですが、最大1200〜1500mlもの貯血が可能とされています。
 また患者の体重(特に小児)や検査値により一度に400mlの採血を行わない場合もあります。採血後は貧血を最低限に抑えるために鉄剤が処方されます。患者の適応によってはエリスロポエチンなどの造血剤の投与が行われることもあります。
 ちなみに時間が経つ上に冷蔵保存なので、血小板機能は失われています


回収式自己血輸血

  回収式自己血輸血は心臓外科や整形外科(特に脊椎・膝関節・股関節手術)を行っている病院ではセルセーバーの名前でおなじみだと思います。800〜1000mlあるいは循環血液量の20%程度が出血する際に適応となります。
 専用の吸引回路で回収して、生理食塩水で洗浄するため、赤血球以外の成分は含まれません。つまり、凝固因子は含まれず,血小板機能もありません。ただ、術中に使用しているカテコラミンや抗凝固薬は除去されていないため注意は必要です。
 また、洗浄しても腫瘍細胞(癌の手術で)は除去できないようで、回収血を使用することで全身に癌細胞がばらまかれてしまうというリスクもあります。しかし,大量出血が予想される一部の癌手術(例:肝臓癌の切除術)では、利益がリスクを上回ると判断される場合に限って使用されることがあります。その際は、白血球除去フィルターの使用や放射線照射などの追加措置が検討されます。実際にドイツでは回収血に放射線を照射してから返血を行っているようです。


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