被曝線量限度ってどのくらい?
まずは“こちらの記事"と"こちらの記事"の内容をもう一度理解しておきましょう.
実効線量は全身,等価線量は各臓器・各組織への影響
復習になりますが,放射線の生体への影響には,「確定的影響」と「確率的影響」とがあります.
一度にある一定量(閾値)を超える放射線被曝を受けた際に生じる臓器障害が『確定的影響』,被曝線量が累積することで癌化や子孫への遺伝的影響のリスクが増加することを『確率的影響』と呼びます.
そして確率的影響には,「体全体」への影響を総合的に評価する『実効線量』と「各臓器・各組織」への影響を評価する『等価線量』がありました.
これらの放射線による医療被曝に関しては,医療従事者への健康リスクを考慮してそれぞれ『線量限度』が設定されており,定期的にモニタリングや健康診断が行われています(みなさん,ガラスバッジきちんとつけてますよね?).
確定的影響の線量閾値
先ほども述べたように,一度にある一定以上の放射線被曝を受けることで生じる臓器・組織障害のことを確定的影響と呼びます.この影響は被曝線量が増加するとともに重篤化します.
例えば眼の水晶体の場合,ある程度までは視力障害の生じない混濁程度で済みますが,被曝量が増えると視力障害を生じ,さらに増えると放射性白内障を生じてしまいます(カテーテル治療室勤務など,日常的に放射線を浴びる方々にゴーグルが必須な理由です).
また,生殖腺に大量に被曝すると永久不妊のリスクがあり,初期の胎児であれば流産や形態異常の原因にもなり得ます(もちろん適切に防護を行えば基準に達することはほとんどありません).
胎児が影響を受ける線量閾値は100mGy以上ですが,胎児は母体組織に囲まれているため,この数値を超えるためには母体がこの数倍以上の被曝を受ける必要があり,適切に防護を行っている場合では問題ありません.
確率的影響の線量限度
この実効線量限度は数値も含めてよく試験でも問われるので,覚えておきましょう.等価線量閾値は弱い水晶体,強い皮膚,妊婦の3つをチェック.
実効線量限度
100mSv/5年 かつ50mSv/年.
生殖年齢の女子に対しては5mSv/3か月
等価線量閾値
水晶体:50mSv/年(注:2018年に150mSv/年から引き下げ)
皮膚:500mSv/年
妊娠中の女子の腹部表面:2mSv(妊娠期間中)
実効線量に比べて等価線量閾値が大きく見えますが,実効線量の算出においては等価線量に組織荷重係数を掛けるため数値はかなり小さくなります.
また,妊娠中の腹部表面の被曝量はかなり安全側に設定がされており,この数値を超えても胎児が確定的影響を受けるにはさらに多くの被曝が必要です.しかし,妊娠期間中の医療従事者は,可能な限り被曝を受けないよう業務内容を調整したり,勤務場所を変更したりと配慮されることが多いです.
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