亜酸化窒素(笑気)ってもう使わないの?【one-pointシリーズ】
手術室の壁にある医療ガス配管.酸素と空気はわかるとして青いやつありますよね?そう,亜酸化窒素(笑気)の配管です.
今日は看護師さんに「あれってもう使わないんですか?」と聞かれたのでその話を.
亜酸化窒素って何のために使う?
亜酸化窒素は「眠らせる」薬と勘違いされているようです(え?そんなことない?).確かに鎮静作用はそれほど強くないですがある程度はあります(ずっと吸ってるとぼーっとしてきます).が,メインの作用は「鎮痛」です.そのため歯医者でも使用されることがありますね.
昔は隠れて吸っていた麻酔科医が・・・(自主規制🙅).
麻酔の三要素は・・・
麻酔関連の本の初めに必ず書いてある,古典的な麻酔の三要素.鎮痛,鎮静,不動(筋弛緩).この鎮痛を担っている,いや,「いた」のが一昔前の麻酔における亜酸化窒素の立ち位置でした.これに硬膜外麻酔やフェンタニルを使用しながら術中管理するのが昔は主流でした.
時は流れ,今では手術で(ほぼ)必ず流れている鎮痛薬がありますよね?そう,現代最強の麻薬性鎮痛薬「レミフェンタニル(アルチバ®)」です.つまり,亜酸化窒素なんぞなくても術中の鎮痛が可能になりました.しかも亜酸化窒素よりもずっと強力な鎮痛が(循環抑制も強いですけど).
亜酸化窒素が使われなくなった他の理由(欠点)①:副作用
亜酸化窒素には無視できない副作用があります.まず「閉鎖腔への拡散」です.空気中に含まれる酸素や窒素よりもずっと色んな場所に入り込みやすい性質を持っているので,体の中の空間にどんどん入ります.
完全に閉鎖腔ではないのですが,長時間手術では腸管内部に拡散して腸が拡張し手術進行の妨げになったり,お腹が閉じにくくなったりします.まだこの場合はなんとかなりますが,緊張性気胸など病態が悪化する可能性のある場合はもっと危険です.亜酸化窒素の使用が望ましくない病態を挙げておきます.
腸閉塞
気胸
巨大なブラがある肺気腫患者
鼓室形成術
眼球内にガスを注入する手術 など
もうひとつの理由として吸入麻酔薬全般に言えることですが「PONV:術後悪心・嘔吐」のリスクが増大することです.
亜酸化窒素が使われなくなった他の理由(欠点)①:環境への配慮
亜酸化窒素は大気中での半減期がとても長く,オゾン層の破壊作用を持つと言われています.そのため環境への配慮からも使用を控える傾向になりました.が,医療用の亜酸化窒素の占める割合はとても低いと言われています(ほとんどは工業用です).
今使うとしたら・・・
歯科医療では用いられていますが,一般手術では短時間の声門上器具を用いる手術などですかね・・.積極的に使用している施設があれば教えてください.
新しい手術室では亜酸化窒素の配管がないところもあるようですね.
以上,亜酸化窒素についてでした.