国産革と輸入革の差
新型コロナウィルスの影響で関西に戻ることを決めたちょっと前、
仕事もなくて特にすることもないので、若松河田の狭いワンルームで革細工に没入していた。
浅草橋の近くのタカラ産業で、スムースな栃木レザーを闇雲に買い漁っていた時期があった。お金はなかったから切り売りとか端切れだけを買ってた。
栃木レザーは有名だし、色んなレザーアイテムブランドで使われているし、東急ハンズにもあるし、なんとなく流行ってていい感じのヌメ革なのだろうなー程度に思ってた。関西に戻ってもしばらく考え方は同じだった。
固くてパリッとしてて張りのある銀面。豊富なカラーバリエーション。手頃な仕入れ価格。品質保証のタグなんかも一緒についてて信頼感もあった。
気になる部分があると言えば、床面をどう頑張って処理してもざらつきが取れなかったり、なぜかトコノールが弾かれる箇所もあったりと、少なからず違和感みたいなものはあった。けど革なんてそういうものだろうと思っていた。
2020年春。密かに、レザーブランドを作ってあれこれ展開させていこうと企んでいた。
コンセプトも考えながらブランドロゴも自作して、アイデアを絞り出して試行錯誤しながらコンパクト財布の初号機であるcw-1を完成させた。様々なミニマリスト財布を調べまくって、実際に手に取って使ってみたりして、既出ではないアイデアを探して自分なりに考え抜いた作品だった。
かなりの手応えがあった。デザインに無駄が少ないので、2年の月日が流れた今でも参考にすることがある。そのくらいよくできていると我ながら思う。
そのcw-1 のアイデアに、当初は栃木レザーを使用していた。
己に学がないとはいえ、経年変化の先も知らないアイテムが不特定多数の人間の手に渡ってしまうのは、怖いしさすがに失礼だろうなと考えた。
当時の職場のスタッフや、高校の同級生にお願いして、栃木レザーで作ったcw-1を試用してもらい、その様子をしばらく見ることにした。
同じ時期の出来事として、
フリマアプリでミネルバボックスがロール売りしていたので一目惚れで購入。
イタリアンレザーの仕入れに力を入れていて、蔵前に店舗を構えているカワムラレザーさんをインスタグラムで知る。ということがあり、結果から言うと、この2つの出来事がきっかけで、僕は栃木レザーを使わなくなっていくことになる。
フリマアプリで仕入れたミネルバボックスと、カワムラレザーさんで仕入れたアラスカレザー。この2つ使用して2種類のcw-1を製作した。
完成時から素材のクオリティに魅せられて、とても愛着が湧いたのを覚えている。
しかしながらいずれもプロトタイプとして、友達に試用してもらうことにした。
2020年秋。土地ところ様々なのでいっぺんにとはいかなかったものの、少しずつ知人友人に試用してもらっていたプロトタイプ財布たちを回収。
あることに気付く。
イタリアンレザーで作ったcw-1の経年変化はとても綺麗で、艶も渋みもあって革本来の「男らしさ」「カッコよさ」を感じた。それに加えて形崩れもなく、まだまだ10年くらいは綺麗な状態のまま使えそうな印象。
一方、栃木レザーの経年変化に違和感を覚える。
艶もある。固さもキープできているものもある。けど、何故だろう。面白くない。華やかさが足りていない。イタリアンレザーの変化のような「感動」や「愛着」が生まれてこない。色の変化のしかたにあるのかもしれない。
艶のない、ただただどす黒くなってくたびれたヌメ革。そんな感じ。
一度生活水準を上げると戻せなくなるという旨の話を聞いたことがあるけど、まさにそのようなものだと思った。栃木レザーで満足していた僕がイタリアンレザーを知った。それだけのことなんだと思う。
使い込まれた栃木レザーに対して「味がある」という言葉をかけることがどうしても出来なかった。
昔イケイケだった俳優が、良い歳の取り方をしたようなカッコよさと、
普遍的な若者が思考停止したまま歳を取って中年太りしたような、
そんな対照さが産地とタンナーの違いに露骨に現れていた。
もちろん栃木レザーも、とても上質な皮革であることに間違いはない。
ただ、経年変化の先の先を見ると、やはりイタリアンレザーに軍配が上がっただけの話。
上には上がいることを身を以ってして理解した。日本の職人さんってだけで、業種問わず世界的にも評価されているものだから国産の皮革も間違いないだろうという思い込みがあった。もっと切磋琢磨して国産の皮革を自慢できるようになればいいなと思う。
無知とは恐ろしいもので、一度腰を据えるとなかなかその世界から出られなくなるものだと思う。井の中の蛙はやはり弱い。ものづくりをして、素材の追求を常にしている人であれば、上位互換が存在することを前提に置いて生きているのだろう。
そのような気づきが得られたので、僕は栃木レザーにはとても感謝している。
そしてこれはあくまで当時の個人の感想で、最近は革の質も上がったのかもしれないし、まだまだ可能性はたくさん秘めているはず。
今後に期待!