絵の概念力
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第1回 株式会社グラグリッド 三澤 直加さん
5月18日(月)「これからを描きつくる仕事」というテーマで、株式会社グラグリッド代表の三澤 直加さんのお話を伺った。三澤さんの仕事≒グラグリッドの仕事は、「描いて、未来をつくる」に集約される。
絵の市民権
三澤さんの未来のつくり方の特徴は、創造や共創のために「ビジュアル」を用いることである。普通はビジュアルは手段の一つにすぎないが、グラグリッドの仕事は、絵を描くこと自体が目的ではないか、と思えてくる。自分なりに解釈すると、絵を描くこと=創造に直結するからである。
多くの仕事で、文字の代わりにビジュアルを用いる場合、「なぜ絵を描くのか」という目的の説明をする。三澤さんの話を聞いていると、絵を描くことに、丁寧に目的を設定しなくても良いのではないか、と感じる。別の言い方をすると、絵を用いるたびに目的を用意しなくてはいけないことが、とてももったいない気がするのである。
私はよく、何気なく思いついたことを忘れないように文字でメモする。文字を書きながら考えをまとめたり、情報を整理したりする。書いているうちに、アイディアを思いつくこともある。会議でも、とりあえず出てきた意見を文章で板書をする。必ずしも明確な目的や答えがあるわけではない。同じことを、文字ではなく絵で行うことへ抵抗感があるのは、絵を描くことが文字を書くことに比べ、市民権を得ていないからである。
絵が持つ概念化の力
描きながら考える、すなわちビジュアルシンキングの具体的なメリットを三澤さんはいくつかあげてくれた。その中で特に大事だと考えた点が2つある。
1.情報の共有が簡単
2.情報を具体的なまま概念化できる
「1.情報の共有が簡単」ということについては分かりやすい。文字に比べ絵の方が直感的に理解できるし、イメージの齟齬が小さい。具体的な例をあげると、文字だけの小説と漫画を比較すれば分かるのではないだろうか。
個人的に考えさせられたのは「2.情報を具体的なまま概念化できる」である。これがビジュアルのもつ「創造性を解放する」という作用に他ならない。
絵で伝えるということは頭の中にあるイメージを具体的にする、ということである。具体的だから、文字より正確に伝えることができる。では概念化できる、とはどういうことか。この点について、三澤さんはあまりお話されなかったので、自分の解釈が入るが、それは「絵は記号になりやすい」ということなのではないか、と考えている。これはグラグリッドの「えがっきー」というツールを使ったワークショップに参加して気が付いたことだ。
ある人が書いたビジュアルは、具体的である。でも、そこから読み取れる情報は一つではない。多くの意味を読み取ることができる。絵は記号になりやすい。
「自分が食べたいもの」というお題でみんなが絵を描いた時、ある人がカレーライスを描いたとする。カレーライスそのものにも背後にある意味を考えることができるが、その描かれ方(野菜が多い、ご飯が多い、など)によっても、様々な解釈が可能になる。そして、他者にとってその絵から感じられる意味をフィードバックしてあげることで、描いた本人にも思いがけない気づきがある。
つまり正確に言うと「絵を媒介にして、発見やアイディアが広がる」ということではないか、と思う。これが「情報を具体的なまま概念化する」ということであり、結果的に創造性を解放することにつながるのではないだろうか。
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