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僕らの「問」が未来を作る

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第10回紺野登さん

 9月11日、「構想力の方法論」というテーマで、多摩大学のイノベーション論の専門家、紺野登さんの講演を聞くことができた。現在広告会社で人材開発に携わっているので、クリエイティブ人材の成長支援という立場から、紺野さんが言及した「これからのデザイナーに必要な能力」について考察したい。
※なお今述べた「クリエイティブな人材に必要な能力」と「これからのデザイナーに必要な能力」はほとんど同じだと思っている。

●構想力の3要素

 紺野さんはこれからのデザイナーに必要なのは「構想力」で、構想力には「想像力imagination」「主観力subjectibity」「実践力practice」という3つの要素が含まれるとおっしゃった。これは自分がクリエイティブな人材に必要と考えていた能力に極めて近かった。
 これからのデザイナー(あるいはクリエイティブ)の仕事は、まだ存在しない新しい概念やイメージを想像して具現化し、人々の前に呈示させることだと思っている。今では顕在化しているニーズや課題を解決するための、アイディアやソリューションを探すのに困らない。逆に選択肢が多すぎて選びにくい時代である。必要なのは、同じ価値軸の中でわずかに優位なデザインではなく、社会に新たな問いを発するデザインである。言い換えると、新しい価値軸を提案することである。
 つまりデザイナーの仕事は、顕在化している課題を解決するだけでなく、目指すべき未来の姿を自分たちで描くところまで、広がっている。「現在存在していない新しい概念やイメージを想像して具現化する」というのはアントレプレナーの思考・行動に通じる。社会に新しい価値軸を提案していくクリエイティブな人材にはアントレプレナー的な思考と行動が必要だ。そのために、必要な能力が「クリエイティビティ」「内発性」「実践力」という3つの能力(もしくは資質)だと私は考えている。

●アントレプレナーのに必要な3つの能力

・クリエイティビティ。
現在ないものを考える想像力と、想像したものを具現化する道筋を見出す創造力も必要だと思っている。
・内発性。
自分なりの「こうではないか」という仮説や「こうしたい/こうあるべきだ」という思い・意思である。「目指すべき未来の姿」には正解・答えがない。課題に対して答えを出すより、自分で問いを立てる力の方が求められている。
・実践力。
考えるだけでなく、アイディアを実現する力。考えたアイディアを形にして世の中に出すためには、協力者と関係を築き協業によるシナジーを発揮する、あるいはプロジェクトのマネジメントをする、といったコミュニケーション力なども必要になってくる。

●デザイナーとアントレプレナーの本質

 上記3つは紺野さんの「デザイナーの構想力」を構成する3つの要素と、それぞれ対応する。その中でも、個人的に今、特に重要だと思うのが、「問を立てる力」すなわち「内発性」ではないか、と思っている(紺野さんの「構想力」の中では「主観力」)。
 社会学者のジグムント・バウマンは「人々は変化と新しいものの発見に対する潜在的な願望を持っている」と述べている。既存の価値軸に閉塞感を感じ、多すぎる選択肢にストレスを感じている時、ポジティブな感情を引き起こすのは新しい価値軸だ。そして新しい価値軸を作るのは、個人から発せられる良質な問なのではないか。

 最後にこれからの社会では、「問を発する個人」であるべきなのは、アントレプレナーやデザイナーだけではないと思っている。VUCAと呼ばれる不確実性も複雑性も増していく社会では、社会課題や事業課題に対してロジックやデータだけで対応できることは少なく、内発性に基づいたビジョンが必要になってくる。また教育においても、自分の内発的な動機に基づいて行動することが、自分のキャリアを作っていくことにもつながるはずである。

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