#c71
ブルー・ビーナス・ブルー
ガソリンスタンドがあった。原付のハンドルを右に傾けて、そのまま車線を横切った。
店員が「シャース」と声をかける。シャースって、なんだろう。よくわからない。いつも思うけれど、不思議だ。わたし自身も中学生のときは、部活終わりに、「アーッタ」と言っていた。「ありがとうございました」の略だったと思う。いつ発生するのかわからないが、集団には独特の挨拶が伝播する。
灰色のコンクリートには油のシミや、
「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」と彼女は
「頭蓋骨を割られたんだよ、それでも」
と彼女は言い、息を吐いて、言葉を区切った。
わたしの名前は新しい。ここでは新しい名前で呼ばれる。みんな、お互いの古い名前を知らない。わたしはただ耳になっている。わたしは食事をしようとしているが、手はぶるぶると震えていて、箸をうまく握れない。
「それでも、わたしは逃げなかったんだよ、だけどね」
と彼女はまた言葉を続けた。
テレビで朝のニュースが流れ