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年次総会(通称ダボス会議)2022 - 官民データ連携

2022年5月、世界経済フォーラムの年次総会が開催されました。約2年半ぶりとなるスイス・ダボスでの開催です。公開配信されたセッションのうち、データ・AIエコシステム関連のものをいくつかご紹介していきます。

今回は、現地時間で5月24日午後に行われたセッション「Strengthening Trust in Public-Private Data Exchange(官民データ連携を通じたトラストの強化)」についてです。
本セッションは、世界経済フォーラムのグローバルなイニシアティブである「DCPI(Data for Common Purpose Initiative)」と連携して実施されました。

デジタル経済に関するセッションはこちら↓

年次総会2022の全体概要はこちらから↓

登壇者

下記のスピーカーの皆さんにご登壇いただきました(敬称略)。

Keir Simmons - Senior International Correspondent, NBC News
Fabrice Tocco - Co-Chief Executive Officer and Co-Founder, Dawex
Lauren Woodman - Executive Director, DataKind
Angela Oduor Lungati - Executive Director, Ushahidi Inc.
Øyvind Eriksen - President and Chief Executive Officer, Aker ASA


データ連携をしないことが、むしろリスクを高める?

セッション冒頭、モデレーターである NBC News の Simmons 氏より「データに関して『何もしないこと』が自分達のさまざまなリスクを高めるのではないか」との問題提起がなされました。

Keir Simmons, Senior International Correspondent, NBC News

この投げかけに対して、"Harnessing the power of data science + AI in the service of humanity"を掲げる DataKind の Woodman 氏は、データは今起こっていることを正しく捉える手助けをしてくれることに加え、いま自分達が成長しているか・前進しているかを測る良いツールであると指摘しました。
また、データのシェアによって世界中のコミュニティの声が、政策などにより反映されるようになるとのビジョンを示しました。

Lauren Woodman, Executive Director, DataKind

Aker ASA 社の Eriksen氏 は、幅広いポートフォリオを持った上で、どのようにデータを活用するか、どのような形でのデータ活用が公益に結びつくかを考えていると述べました。Aker ASA 社は、ノルウェイを拠点とし、石油、ガス、再生可能エネルギー、グリーンテクノロジー等への投資に注力する企業です。
この前提として、世界が現在直面している課題は一企業・一団体で解決するには手に余るものが多いことに、Eriksen氏は言及しています。
例えば、昨今高騰しているエネルギー価格の解決策として、再生可能エネルギーの利用促進が挙げられます。このプロセスも各企業でそれぞれ対応していては長い時間がかかってしまいますが、データを出し合い、企業の枠を超えた協力を行えばより早く課題解決に向かうことができるでしょう。

Øyvind Eriksen, President and Chief Executive Officer, Aker ASA


データ連携で、個々の市民が抱える課題を解決する

Ushahidi Inc. の Lungati氏は、情報の収集・可視化を目的として、オープンソースによる地図アプリケーションの開発を行ってきた経験を語りました。

なお、Ushahidi は、ケニア危機の際に、報道規制が敷かれる中、メール等で個人からの暴力行為目撃情報などを受付け、それを地図アプリ上で可視化する活動をしたことで有名です。
市民の声と地理情報をつなげるアプリケーションは、ハイチ地震やクライストチャーチ地震における被災者情報の共有や、ワシントンの除雪情報共有などにも利用されています。

Ushahidiではモバイル端末からデータを収集していますが、これによって一般的な市民の意見や、彼ら/彼女らが抱えている個別の課題についての声を拾い上げることができるようになったとコメントしました。

Angela Oduor Lungati, Executive Director, Ushahidi Inc.


官民データ連携を進める上で、直面している課題

フランスを拠点にデータ取引プラットフォーム等を構築している Dawex社の Tocco氏は、官民データ連携において信頼を構築する上で重要なことを尋ねられ、「ステークホルダーの成熟度」を挙げました。
つまり、ステークホルダー自身がデータを使って何をしているか、何をしたいか、どのような戦略を取るつもりかなどをしっかり理解していることが信頼の醸成につながります。

また、Tocco氏は、データのシェアは直接的・間接的な利益を提供者にももたらすとも述べました。自社サービスを供給している相手にデータを提供することでサービスの改善などにつなげることができるほか、より広く公共にデータを解放することで自社の透明性や信頼性が高まる結果に繋がることもあるからです。

Fabrice Tocco, Co-Chief Executive Officer and Co-Founder, Dawex


Eriksen氏からも、データを“誰と”シェアするかというのも大事な問いになってくるとコメントがありました。対象が公的な第三者機関なのか、官民に関わらず課題のステークホルダーなのかで対応も変わってくるからです。
また、信頼を構築することはビジネスリーダーにとって最重要な課題であるとの認識も示しました。
その上で、ダボスで行われている議論が、ここ数年で「いかにデータを保護するか」から「いかにデータを信頼のおける形でシェアしていくか」という方向にシフトしていったと振り返りました。

Lungati氏は、データをシェアする際の文脈についても考えを巡らせる必要があると指摘しました。緊急事態が起こった際は個人の位置を特定できるようなデータのシェアは人道的な観点から促進されるべきかもしれないが、危機が去った後ではそのようなデータのシェアはされるべきではないだろうとコメントしています。

AM22 session "Strengthening Trust in Public-Private Data Exchange"


ビジネスリーダーは、なぜデータ連携をすべきか?

続いて、データ連携に関するビジネス上の価値について話題が移りました。

Woodman氏は、NPOの立場からの意見になると断った上で、データのシェアを巡るさまざまな規制が国ごとで異なるなど複雑な状況が生まれているとの問題意識を表明しました。
その上で、こうした状況で多くの企業が参画することで、データ連携の仕組みが整備されることなども期待できるとコメント。各々の殻に閉じこもることなく積極的にデータシェアリングに携わってほしいと考えていると述べました。

Eriksen氏は、自社のデータだけに頼っていては正しい決断を下すことは難しくなってきていると指摘しました。データ連携を通して自社ビジネスの置かれている環境を理解していくことが肝要だと述べました。

Tocco氏もまたデータ連携の価値に賛同しました。ビジネスは一つの会社だけでできるものではなく、パートナー企業との関係などによって成り立っていると述べた上で、データをシェアしない企業は、そうした関係性から疎外されていくだろうとコメントしています。


データ連携の透明性を保つには?

「どのようにデータシェアの透明性を保っているか?」との質問がありました。
Lungati氏は、クリアなコミュニケーションとデータ提供者にどのようにデータがシェアされるかの正しい認識を持ってもらうことの重要性を指摘しました。加えて、データ連携を通して期待できるインパクトを説明することも必要とコメントしました。また、Ushahidiの文脈では、匿名でデータを提供できるような仕組みも実装していると述べました。


データ連携は、現時点でどこまできた?

データシェアリングの現時点での課題や成功について問われた Woodman氏は、トレンドの変化について説明しました。
すなわち、ここ4-5年で「データをシェアしたい」と漠然と考えていた企業が、実際の課題をベースに、どのようなデータのシェアが効果的か、そのためにはそれぞれの企業がどのデータを出し合うべきかなどを議論している段階まできていると述べました。

Lungati氏は、企業・組織同士が協力する上で、お互いのデータのフォーマットの違いが課題になっていると指摘。近年、Humanitarian Data Exchangeなどのプラットフォームが登場して、前進は見られるが、データ共有の標準化が、必要な水準まで進んでいるとは言えないとの課題認識を示しました。

"Thank you for your great conversation!"


官民データ連携を活性化させる、DCPI

今回のダボスにおける年次総会での議論も踏まえ、DCPIチームは、引き続き、白書の執筆やグローバル・ワークショップ開催などを通じた官民データ連携の更なる活性化を推進していきます。
DCPIの活動にご関心のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。


執筆:村川智哉(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)
企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命センター(サンフランシスコ) 中西友昭(フェロー)、堀悟(フェロー)、同日本センター 工藤郁子(プロジェクト戦略責任者)

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