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過去の災害を知る《8》鉱滓ダムの決壊〜ハンガリーアルミニウム赤泥流出事故(10月4日)~

 ダムというと、山間部に降った雨を貯めるイメージがあるかと思います。しかし、雨水以外を貯めるダムもあり、そこが決壊すると想像を超える被害を出すことがあります。
 本日は、東欧はハンガリーで発生した「アルミニウム赤泥ダム」の決壊事故についてまとめます。

ハンガリーアルミニウム赤泥流出事故の概要
発生日時:2010年10月4日
影響範囲:約40平方キロメートル(赤泥による土地への影響)
     ドナウ川流域(水質への影響・影響懸念)
被害  :死者      9人
     負傷者 120人以上
     家屋倒壊など

アルミニウム工場の廃液が街に押し寄せた

廃液

写真の出典:Ministry of Public Administration and Justice, Ministry for Government Communication

 アルミニウム工場から廃液をためていた鉱滓(こうさい)ダムが決壊し、赤い泥水が数mの波となり下流の街を飲み込みました。決壊の原因は直前に降った大雨とも言われていますが、まだはっきりしていないようです。

 写真からもわかるようにその量は尋常ではなく、なんと100万立方メートル。日本における治水・利水ダムの容量と同程度のオーダーで、いかに大量の赤泥が流出したかが分かります。

被害は国外にも

ドナウ川

 アルミニウム製造過程で出る廃液には鉛などの有毒物質、腐食性の高い物質も含まれており、飲み込まれた人が化学性のやけど等で死傷しました。

 また、赤泥は決壊後数日でドナウ川に到達しました。ドナウ川は黒海に続く国際河川で、ハンガリーより下流の各国は水質の悪化を懸念し水質監視を強めたそうです。ハンガリー国内にとどまらず国際問題に発展した、大きな事故でした。

そもそも鉱滓ダムとは

 鉱滓ダムとは、鉱山や精製工場で発生する捨石や鉱さい、沈澱物を集積するダムです。ダムと聞いてイメージする黒部ダムや宮ケ瀬ダムなどは、河川法にある「河川の流水を貯留し、又は取水するため第二十六条第一項の許可を受けて設置するダム」ですが、それとは目的が違うのです。

 日本にも、過去に稼働していた鉱山や精錬所の近くなどに鉱滓ダムが存在します。中には数十mの高さになるものもあり、地図や航空写真でその姿は確認できます。ただし、鉱山の所有者などが管理しており容易に立ち入ることはできません

持続性がカギを握る、鉱滓ダム決壊防止への対策

渡良瀬1

 ダム堤体の決壊は下流に大きな被害をもたらしますが、鉱滓ダムの場合、決壊により土や水だけでなく沈殿物も下流へ押し寄せる恐れがあり、適切に管理する必要があります。

 CSRの観点から、かつて鉱滓ダムを利用した企業がダムの保全を続けています。決壊を防ぎ安全を保つためには、この管理を今後も継続的に行う必要があります。

 しかし、鉱滓ダムは治水や利水の目的を持たないため、管理のインセンティブが低いです。また、万が一会社が倒産したら誰が管理するのでしょうか。

 持続的な管理のために税金を投入するのか、また有効利用の方法を考えるのか。今後劣化が進行する鉱滓ダムへの対応方法を、公益の観点から考える必要があると思われます。

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